子どもからすると、歯医者さんは漠然と怖いイメージがあり、「できれば避けたい場所」ではないでしょうか。
岡本歯科医院は「怖さ」からほど遠いかもしれません。子どもの患者さんが多く、アットホームな雰囲気です。院長である岡本先生には、老若男女を問わず人を惹きつける柔らかな魅力があります。
「私は強豪校や強豪道場にいたわけではないんですよ」と穏やかな口調で語る岡本先生は、昨年八段審査の一次審査を通過しています。
本業の傍ら、訪問診療などの地域貢献活動などにも取り組まれているので、普段からお忙しいはずです。どのように稽古時間を確保し、八段審査に向けた準備をしているのでしょう。
お仕事に対する姿勢や、ここ30年で感じた少年剣道の変化、そして時代が変わっても残していきたい、剣道の普遍的な価値についてもお話をうかがいました。
プロフィール
岡本 徹(おかもと・とおる)
1961年神戸市生まれ。長野県立諏訪清陵高校卒業後、東京医科歯科大学歯学部に進学。同大学卒業後、布施歯科医院、沼田歯科医院を経て、岡本歯科医院に勤務。2015年、院長に就任。公益社団法人東京都大田区大森歯科医師会 会長を経て現在は監事、東京都歯科医師連盟 専務理事、全日本歯科医師剣道連盟 理事長などを務める。
剣道は小学校1年生の時に始め、小中高大、歯科医師になってからも継続。現在は鵜の木剣友会に所属し会長・師範を務める。剣道教士七段。
名前 | 岡本歯科医院 |
ホームページ | https://www.okamoto-d.net/ https://okamoto-denture.com/ |
所在地 | 〒146-0091 東京都大田区鵜の木2-15-19 東急多摩川線 鵜の木駅下車 徒歩1分 |
電話番号 | 03-3759-4184 |
営業時間 | 【月曜日~金曜日】9:00~13:00/15:00~19:00【土曜日】9:00~13:00/15:00~17:00 |
定休日 | 木曜日・日曜日・祝日 |
子どもも安心のアットホームな歯科医院。地域貢献のため訪問診療も
──診察メニューを教えてください。
一般歯科、小児歯科、予防歯科、口腔外科、審美歯科などです。
地域のかかりつけ歯科医として、患者さん一人ひとりに適した治療の提供を心がけています。
──「地域のかかりつけ歯科医」を掲げるようになったきっかけは?
当院は大学病院のように高度な設備がないため、特別な病気に対応するのは難しいです。しかし、お口のちょっとした不安や悩みなど、歯科に関する地域のニーズに寄り添って応えることができます。地域の皆さんのお役に立ちたいという想いを込めて「地域のかかりつけ歯科医を目指す」と謳っています。
下は赤ちゃんから上は100歳まで、本当に幅広い年代の方に通院していただいています。ちなみに当院は、子どもの患者さんがとても多いんです。
──普通、子どもは歯医者さんを怖がりますよね?
たまに怖がったり、大泣きしたりするお子さんもいますが、基本的に皆さんリラックスして通ってくださっています。中には、大人もお子さんも、治療中に寝てしまう方もいるほどです(笑)それだけ「安心してくださっている」のは嬉しいことですね。
また、通常の診察に加えブラッシング指導に力を入れています。なるべく自分の歯を長持ちさせるためには、やはり日々のブラッシングがとても大切なので。歯を磨かない方はいないと思いますが、きちんと磨けていない方は案外多いです。
出来れば1日3回、毎食後3分以内に3分間以上磨くことをお勧めしています。特に、夕食後・寝る前の歯磨きが大事ですね。そしてデンタルフロスや歯間ブラシなどの補助的器具の使用も大切です。また、朝起きた時に軽く口をすすぐ習慣をつけると良いでしょう。
痛くなってから歯医者に行くのではなく、普段から正しい口腔ケアをして、少しでも異変を感じたら相談に来ていただきたいです。また、治療が終わった後のメンテナンスも兼ねて定期健診をお勧めします。定期的に歯科健診をすることで健康寿命が伸びるというデータもあるんですよ。
──地域貢献活動で訪問診療もされていると聞きました。
はい、大森歯科医師会での活動の一環で地域の施設訪問を行っています。
──具体的にはどんなことをされるんですか?
特別養護老人ホームで入居者の食形態や食べ方に関するアドバイスをさせていただいています。高齢者の方で飲み込みの機能が衰えてくると、食事が喉に詰まってしまう窒息や誤って気管に入ってしまい誤嚥性肺炎を起こす心配が増えます。食形態や食べ方(提供方法)がその方にあっているか、月一回訪問してアドバイスをさせていただいているんです。
大学卒業後すぐに歯科医院に勤務
──歯学部に進学したのはなぜですか?
高校3年生になって進路を決める際、いろいろ考えた末に士業を目指そうと思ったんです。周りに「先生」が多かったことも影響しているかもしれません。父は元は学校の先生でしたし、祖父と叔母と従兄の一人は医者なんです。
「お口の健康」から人を幸せに出来る「歯科医師」という職業に魅力を感じたのと東京に出てみたい気持ちもあったので、東京医科歯科大学への進学を決めました。
──歯学部は、卒業後に大学に残る方も多いと聞きました。大学に残らなかったのはなぜですか?
そうですね。大学に残って専門性を高めることはとても大切なのですが、総合的に色々なことが出来るようになる一般歯科での勤務医を選びました。
ちなみに、大学の6年間は寮に住んでいて家賃がとても安かったのもあって、仕送りなしで過ごしました。それもあって、早く「一人前」になって収入を得たかったのも理由のひとつですね。
──仕送りなしだったんですか?!すごいです。
いえいえ。週4回程度の家庭教師のアルバイトでなんとかやっていました。それもあって、大学時代は授業と剣道とバイトと寮での「飲み会」がほとんどでした(笑)
──現在の岡本歯科医院を継がれた経緯は?
もともと岡本歯科医院は50年以上前から、この大田区鵜の木の地で、義理の父が院長として診療していました。途中「手伝ってほしい」とのことで、平成2年から25年間一緒に勤務医として診療していましたが、義理父の引退のタイミングで、院長を交代して引き継いでいます。
身体が弱かった少年時代。子どもの頃の剣道の縁は、現在も続く
──剣道を始めたのはいつ頃ですか?
私は小さい頃は身体が弱く、怪我も多かったので「剣道をやれば強くなるのでは」と考えた両親に勧められ、小学校1年生の時に剣道を始めました。
神戸にある「般若林」という道場で、ちょうど私と兄が入るタイミングでできた道場です。「八王寺」というお寺さんの道場で、稽古の前に「座禅」をするのが特徴でした。私と兄の他、もう2人の子供の4人からのスタートでしたが、多い時は200人ほどの規模になっていました。
今でもその道場の人たちとは繋がりがあって、年賀状のやりとりをしているんですよ。
──素晴らしいですね!
有難いことにご縁が続いていますね。創立50周年の大会に呼ばれて参加したり、当時の道場の先生と八段審査で再会を果たしたりもしています。
──大学まではずっと神戸に?
いえ、中学校までは神戸で暮らし、中学3年生の4月に父の仕事の関係で長野県茅野市に引っ越しました。
高校でも剣道部に所属して剣道を続け、大学進学のタイミングで上京し、東京医科歯科大学の剣道部に所属しました。
現在は鵜の木剣友会の会長。大田区剣道連盟として剣道形にも力を入れる
──鵜の木での剣道について教えてください。
岡本歯科医院に勤め始めてすぐの頃、鵜の木剣友会の存在を知り入会させていただきました。それから30年近く所属しています。
入会した当時は、先代の会長・師範のもとで稽古をしていました。剣友会には3つのモットーがあります。「ファミリー剣道」「克己心」「教えることは教わること」です。
まず「ファミリー剣道」について。鵜の木剣友会は和気藹々とした雰囲気で、親子で剣道をする方も少なくありません。家族のように仲の良い剣友会を目指しています。
また、試合で勝つことよりも青少年の育成を大切にしています。テクニック的なところよりも基本に忠実にまっすぐ打つこと。辛い時も自分に負けず、乗り越えていく「克己心」を持つようにと常々お話しさせていただいています。
最後は、「教えることは教わること」。教えることを通して先生たちも学ぶんです。私たち高段者は、子供たちの指導をする若い先生方をサポートするような立場ですね。
──現在は鵜の木剣友会の会長をされていると聞きました。
はい、5年前に会長に就任させていただきました。ただ、ポリシーや運営方針は以前のままです。剣友会が大田区所属のこともあり、大田区剣道連盟の常任理事もやらせていただいています。
──大田区の皆さんは、東京都の形剣道大会でも活躍なさっていますよね。
スタートは木刀を使った基本技稽古法なんです。子どもたちに教えるにあたって基本技稽古法の勉強を始めたところ、「とても理にかなった稽古法だ」と驚きました。勉強すればするほどその奥深さに惹かれ、同時に剣道形にものめり込んでいきました。
大田区全体でもしっかりと剣道形に取り組むようになり、監督として関わった東京都形剣道大会では、2020年に三段以下の部、四・五段の部、六・七段の部のすべての部門で3位になり、総合で準優勝させていただきました。昨年は六・七段の部で準優勝、総合で3位でした。
──剣道形の面白さとはなんでしょうか?
剣道形の中には理合が詰まっています。剣道形の稽古を積むことで、所作や構えも良くなり、また、打つべきところがわかるようになると感じています。
例えば、剣道形の太刀1本目や2本目なども、どこでどう抜くのかは決まっていますが、ギリギリまで我慢して「ここぞ」というところで相手に応じるようにすれば、それは即、竹刀剣道につながります。
基本技稽古法も同じで、ただ単に順番を覚えるだけではなく、例えば、返し技なども、相手が打って来たところを我慢してパッと返すように心がければ、必ず上達につながり実践でも使えるようになります。私自身も、審査に大いに役立ったと実感しています。
八段審査に向けた準備。稽古ができない日は自宅トレーニング
──岡本先生は、八段審査の一次を通過なさっていますよね。審査に向けてどんな準備をしましたか?
診療や歯科医師会での役職もあり、稽古時間の確保は簡単ではありません。七段審査を受けるときは週に3〜4回稽古していましたが、今は週1~2回が精一杯で、コロナのこともあり、十分な準備は出来ていなかったのですが、これまでやってきたことを無心で出すことで、自分でも不思議な感じで一次合格させていだだきました。
稽古ができない時は、自宅トレーニングですね。「面倒くさいな」と思いつつも、「ここでやらなきゃ絶対だめだ」と自分を奮い立たせて、腕立て伏せ・腹筋・背筋・スクワットや素振りなどで基礎体力を維持し「動ける身体作り」に励んでいるのが良い結果を生んだのではと思っています。
ちなみに、昔、TV番組のSASUKEに出たことがあるんですよ。
──えっ!??SASUKEですか!?
はい。もう20年以上前になりますが、39歳のとき、30代最後の記念にと応募してみたら、たまたま採用されました!!歯医者なので白衣を着て登場しました(笑)
──まったく予想しなかった情報が飛び出して驚いています。
オンエアはされなかったのですけどね。もちろん途中で池に落ちました(笑)
身体を動かすことが好きなので、いまでもトレーニングは続けています。腹筋も割れているし、「二の腕」の「力こぶ」もちょっとした自慢です!!
──す、すごすぎます!!
肉体的にも精神的にも「いつまでも若々しくありたい」と思って努力しています!
時代に合わせた変化と、受け継ぐべき剣道の価値とは
──鵜の木剣友会には30年近く所属なさっているとのことですが、その間に少年剣道を取り巻く環境に変化はありましたか?
子どもだけではなく、部活動も変化しましたよね。いまも変化の最中かもしれません。
昔はとんでもなく激しい稽古をして倒れたり吐いたりすることもありましたが、今は子どもの安全を第一にしているところがほとんどではないでしょうか。
剣友会の気風や親御さんにもよりますが「どんどん鍛えてください」という方がいる一方で、そういった稽古にびっくりされてしまう方もいるはずです。
──時代の変化もとらえつつ、普遍的な剣道の良さを残すにはどうすればいいのでしょうか?
そうですね…。例えば、暑い時、寒い時、ものすごい雨の時、こんなふうに子供たちに話します。
「今日は、稽古に行きたくないという心が芽生えたかもしれない。それでも君たちはここに来た。それは自分に克ったということです。今日来ていない子よりも必ず強くなる。
剣道に限らず、何事においてもそうです。疲れているとき、面倒くさいとき、人は楽な方に流れがちです。それを我慢して、自分が立てた目標やルールを守ってやるべきことを実践していれば、必ず良いことにつながります」
こういった話を続けていくと、子どもたちの心のなかに自覚のようなものが生まれていくように感じます。
──素晴らしいですね。剣道を通して子どもたちに伝えていきたいことはありますか?
剣道だけではないのですが、何事も「継続は力なり」ということですね。「つらいな」とか「やめたい」と心が折れそうになっても、続けていれば必ず良いことがあります。費やした努力がそのまますぐには返ってくることがなかったとしても、必ず何かが身になるはずです。逆に、努力しないことには何も返ってこない。
だから、楽しみながらできることにどんどん挑戦してほしいです。その努力は、必ず子どもの力になると信じているし、続けることが「克己心」にもつながります。
「千里の道も一歩から」とか「一より習いて十を知り、十より返るもとのその一」といった言葉もとても意味深く、日頃から引用するようにしています。
──素晴らしいですね。岡本先生ご自身が、大事にしていることを教えてください。
何事にも感謝の気持ちを持つことです。今の自分があるのは間違いなく周りの皆さんのおかげで、剣道の稽古や審査や飲み会(笑)に行けるのも家族の理解があるからこそと思っています。そして、こうした感謝の気持ちは「持つ」だけではなく、きちんと「言葉で伝える」ことが大切ですね。
仕事も剣道も、目の前のことに精一杯取り組んでいきたい
──今後の展望を教えてください。
大田区にはたくさんの歯科医院があります。そのなかで当院を選んで来てくれていることが、まずとても有難いことですし、嬉しいことです。だからこれ以上を目指すというより、今いらしてくださっている患者さんに精一杯の治療を提供していきたいです。
昨年60歳になりましたが、幸いこの仕事には定年がありません。アーリーリタイアを望む方もなかにはいますが、私は健康で目が見えて手が動くうちは、やりがいのあるこの仕事をできる限り続けていきたいと思っています。
また、「お口の健康」が「全身の健康」につながるということを一般の皆様にもっと啓蒙していくことも重要で、今後の課題ですね。
──剣道に関してはいかがでしょう。
物事には「目的」と「目標」がありますよね。八段は剣道を続ける「目的」ではないですが大きな「目標」として、今後も稽古に真摯に取り組んでいきたいと考えています。
私はいわゆる強豪校や強豪道場に所属してきたわけではありません。しかし、基本を大切に地道に稽古を続けてきたことで、昨年、八段審査の二次審査の会場に立つ機会をいただきました。その時に、なにかとても清々しい気持ちになり、これまで積み重ねてきたことをさらに磨いていこうと、思いを新たにしたんです。人生のなかでこんなふうに真剣に取り組めるものがあることは、とても幸せなことだと感じています。
また、「全日本歯科医師剣道連盟」という歯科医師の剣道愛好家による団体があり、理事長を拝命しています。歯科医師の仲間による剣道の発展、また、歯科学生への支援などに少しでも貢献できればと思っています。
東京都の「シニア大会」にも年齢的に出られるようになったので、挑戦したいと思っています。(その先にある「ねんりんピック」の出場を目指して!!)
仕事に関しても、患者さんから直接「ありがとうございます」と言って感謝してもらえることはとても嬉しく、有難いことだと思っています。これからも剣道も仕事も、感謝の気持ちを忘れずに精一杯取り組んでいきたいです。
──インタビューを通して、先生の優しいお人柄をひしひしと感じました。本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
住所 | 〒146-0091 東京都大田区鵜の木2丁目15−19 |
電話 | 03-3759-4184 |
営業日 | 月~水、金/09:30~13:00,15:00~19:00 土/09:30~13:00,15:00~17:00 |
定休日 | 木、日、祝日 |
この記事へのトラックバックはありません。