年末年始の営業について

絶対に他と違うことをしなきゃダメ!成功事例を創って後に続く人の刺激になる。(伴一訓/株式会社大伴リゾート 代表取締役)

富士山。言わずと知れた日本が世界に誇る名峰は、2013年に「富士山-信仰の対象と芸術の源泉」として世界文化遺産に登録され、富士五湖も構成資産に登録されました。中でも河口湖は最も長い湖岸線を持ち、富士山の絶景が楽しめるとして観光客に特に人気の観光地です。
その河口湖の北岸で貸別荘業を承継した株式会社大伴リゾートの伴一訓さんは、これまた日本が世界に誇る電気機器メーカーで“第1回ものづくり日本大賞・内閣総理大臣賞”を受賞したロボット研究者からの転身。誰もが驚く転身のストーリーと圧倒的なスピード感での事業展開を支えるものは何かを伺いました。

プロフィール

伴一訓(ばん・かずのり) 1968年4月12日山梨県富士河口湖町生まれ。山梨県立都留高校から東京大学工学部に進み計数工学を専攻。大学卒業後はファナック株式会社で知能ロボット開発に従事。2005年に“第1回ものづくり日本大賞・内閣総理大臣賞”を受賞。ファナック在籍中の2015年に奥様とともに株式会社大伴リゾートを設立。3年前の2021年にファナックを退職して本格的に家業を承継、経営革新に取り組む。2022年6月に「旅の駅 kawaguchiko base」をオープン。同年8月に富士河口湖町初のワイナリー「7c | seven cedars winery」を開業、さらに2024年7月には日本初のワイナリーヴィラ「7c villa & winery」を開業。
剣道は小学5年時に地元のスポーツ少年団で始め、高校3年間の中断を経て東京大学、ファナックと30代前半まで継続。剣道三段。

河口湖カントリーコテージban https://www.c-ban.com/

旅の駅 kawaguchiko base https://www.kawaguchikobase.com/

7c | seven cedars winery https://www.7cwinery.com/

7c villa & winery https://www.7cvilla.com/

本格的に家業を継いでからわずか3年

― インタビューの前に早速「旅の駅」を堪能させていただきました。「旅の駅」の隣にワイナリーとヴィラもあって、どれも真新しいだけじゃなくて、ブランディングも行き届いていて素敵だなと感激しました。

ありがとうございます。
ここは河口湖の北岸で、「旅の駅」のエリアはお土産売場や産直マルシェ、レストラン、イベントスペースなどがあります。一方、向こうの山の中腹に一戸建てのコテージが点在してるんですけど、それは父が始めた事業で、30数年経っていて結構古い(笑)。

歴史をお話しすると、祖業は撚糸業なんです。富士吉田の地域はバーバリーとか高級紳士服の生地の産地として有名で、ウチもラルフローレンの袖裏生地を作ってたんです。日本製は生糸で作ったみたいで風合いがよくて袖通しもいいということで、アメリカの本場からじゃなくウチから海外にも出してたんですよ。でも、AOKIとか青山とかが中国製の生地でバーッと入ってきちゃって、いまは大手が数件残っているだけですね。ウチも最近までやってたんですけど、何とか廃業という形できれいに終わることはできました。

貸別荘業は父の代、僕が大学を卒業した1990年頃にスタートしたものです。僕は東大工学部で計数工学を学んでからファナックに入って知能ロボットの研究をしていたので、実家の事業とはまったく関係がない(笑)。
ちょっと話は逸れますけど、従来の自動化って、人がお膳立てをしてきれいにモノを並べてやった後に、プログラムに沿ってモノを取って加工するような内容だったんですね。知能化といのはそのお膳立てを無くするもので、素材が入ってきたら、それがどういう風になっているかを視覚センサーで見て、全部計算で出してどうやって取りにいけばいいかからやっていく。で、夜に社員が全員帰った後の真っ暗な中でロボットだけが黙々と仕事をしてる工場を立ち上げて、720時間つまり1ヵ月連続で無人稼働を達成して、ちょっと自慢になりますけど、それが評価されて“第1回ものづくり日本大賞・内閣総理大臣賞”ももらった。小泉総理のときですね。
だから、宿泊業とか小売業とかまったく関係ないところにいた(笑)。

2003年の“第1回ものづくり日本大賞の内閣総理大臣賞”を受賞。右から2人目が伴さん。左から3人目が当時の小泉純一郎総理。
パネルが、720時間連続稼働を実現したロボットセルシステム。

― 大伴リゾートの設立は2015年ですね。

そうなんです。まだファナックにいるときに、父からの事業承継を想定した会社として、嫁さんと二人で設立しました。ダブルワークでのスタートでしたね。ただ、コロナになったときに父が80歳を超えて、僕もファナックでの仕事がひと区切りついたタイミングがあった。そのときに、この先自分がやらないと店仕舞いだなと思ったので、「継ごうか!」とスパッと辞めてこっちに入ってきた。なので、ファナックを辞めてからはまだ3年。

辞めてから3年ですけど、助走というか大きな変化はあったんです。
父がやっていた貸別荘業は、予約を電話で受けて、名前は?電話番号は?などなどノートに手書き。キャンセルになったら消しゴムで消す。そういう家族経営的なやり方だったんですけど、私とか妻が入ってきたときは楽天トラベルとかじゃらんネットみたいなオンライン予約が世の中に出てきた頃で、会社に行ってる傍らでウチ専用の予約システムを自分で作って、電話で受けるところからオンラインで入ってきたのをどんどん電子的に登録して予約管理するというのをやり始めた。そうしたら父親も「もう自分たちはついていけないから、お前たちがやってくれ」と。建物もサービスもまったく変えてないんだけど宿泊客数が倍くらいに増えたんですよ。世の中のトレンドにきれいに乗っかれたんでしょうね。で、会社を分けて、そのうち「旅の駅」とかを企画したりして。会社辞めるって言って、ただ単に貸別荘を引き継ぐだけだとつまらないじゃないですか(笑)。

貸別荘(カントリーコテージban)からの眺望。間違いなく美しい富士山を拝めると満足度は爆上がりなのだが、
一方で、富士山のみに依存して地元の努力が促されていないと伴社長は指摘する。

「富士山きれいだね。で、次どうする?」という問題

― 河口湖は東京からも近いですし、観光客にとって利便性の高い魅力的なエリアですよね。

そう。東京の隣りなので結構な人が入ってきます。それに、山梨県に入ってくる観光客の半分近くが富士東部と呼ばれるこの辺りなんですよ。ただポイントは、河口湖って統計的にみると平均宿泊日数がすごく少なくて1.3日。軽井沢が1.8日で白馬は1.7日。これって日帰りしちゃう人が多いってこと。
あとね、富士山しかない。来てくれても「富士山きれいだね。で、次どうする?」って言ったときにあんまりない。若い人は富士急ハイランドなんかもありますけど、年配の人は結局帰ることにしちゃう。富士山に甘えて、あまり努力をしない地域なんですよ。

それに、湖畔には大きいホテルがポンポンポンとあるけど、そういうところって、ドーンとお客さんが来て、食事は中でとらせるしお土産も中で買わせる、レジャーも中で閉じてるから、大手のホテルにはお金が落ちるけど地域に人が散らばっていかない。そういうことがあって、「地域ぐるみで人を分散させて、いろんなところを回遊するような地域にしなきゃならないよね」というのがこの地域の若い人が感じている課題。自分自身も地元の人間なのでそれをずっと感じてた。で、泊まるとか食べるとか買うってことを、全部ホテルで完結するんじゃなくてバラバラにやって、お土産はここに買いに行くとか、ワイナリーもそう、そういうのがあれば人があちこちに行くじゃないですか。そういうのがきっといいだろうなってことで。最初のスタートはそんなとこなんですよ。

2022年6月にオープンした「旅の駅 kawaguchiko base」。中央自動車道の河口湖ICから約15分の距離にある約4,000坪の広大な敷地にある
物販店舗及びレストランを併設した複合型の商業施設。洗練されたデザインが一目見た瞬間からテンションを高めてくれる。

絶対に他と違うことをしないとダメ!
ファナック時代に叩き込まれた精神

― 家業を継がれて地域貢献に発展させているのは素晴らしいと思います。ところで、いわゆる「道の駅」は官製だと思うのですが、「旅の駅」は100%民設・民営だということに驚きました。

よく言われますよ、「これ、行政がやる仕事でしょ?」って。

― 「旅の駅」というネーミングはここだけですか?

全国的に見れば似た名称の施設は多少あるそうですが、「旅の駅 kawaguchiko base」という名称で商標登録をすることができました。
ただ、「旅の駅」って言っても「道の駅」を連想するじゃないですか。だから「道」と同じことをやってたらダメ。これはもう私がファナック時代に叩き込まれてて、「絶対に他と違うことをやらないとダメ!」っていうね。で。名前は似てるけど路線は違うってことで。「旅の駅」に入るとコンセプトを書いたパネルが掲げてあるんですけど、地域の掘り出し物を並べて、普通ただ単に地元の農家さんが持ってきた野菜だけが置いてあるような道の駅とは違って、地域の名店ってあるじゃないですか?和菓子が美味しいとか洋菓子が美味しいとか。でも東京から来た人はそういう小さな店を探すのが大変だから、そういう店を引っ張り出してきて、でもそういう店は小さいのでパッケージとかがイケてなかったりするんだけど、それを我々の方でパッケージだけはさせてもらう。ちょっとブランドっぽくやって並べてるんですよ。

そうすると、いままでの商売よりもここに来た方がどんどん商品が捌けるんで地域のお店の人も助かる。我々としては、ここで発見してもらって、2回目は直接向こうに行ってもらってもいいやっていうつもりでやってるんです。要は「繋ぐ役目のお店になれればいいや」っていう感じのコンセプトを創って始めました。

ふるさと納税なんかも盛んですけど、意識の高い人が自治体の長をやっている時代はいいけれども、いまの河口湖は富士山に甘んじていて、観光の町なのに観光に対してあまりいろんなことをしない。だから民間が頑張ってる町、民間の方が積極的な町になっていて、そういうのをすごく意識してやってきてます。

「旅の駅 kawaguchiko base」の開放感のある空間に、きれいにディスプレイされた地元の産物が並ぶ。
店内のワインコーナーもとても充実しており、試飲コーナーもある。
「旅の駅 kawaguchiko base」を入ってすぐにある「MEGU」ブランドのコーナー。
伴社長がおっしゃるとおり、「旅の駅」のパッケージでも生産者がちゃんとわかるようになっている。

お店の中では「MEGU」というブランドを作っていて、地域のいいものを「めぐり」つまり探して回って、素敵なものを見つけ出して、我々の方で「めぶかせて」発展させる。それがWIN-WINになるからっていう、そういうコンセプトを創って。“知る人ぞ知る富士吉田市のロールケーキの美味しいお店”みたいなのを引っ張り出してきて、ちょっとアールグレイ味を作ってもらったりして。で、パッケージをカッコよくするみたいなことをいろいろやってる。

― 選ぶのにセンスも求められると思いますが、商品選定にはすべて伴社長が入っていらっしゃるんですか?

こういうの、うちの嫁さんが好きで(笑)。バイヤーみたいなことをやってます。もともとは夫婦のミーティングで決まっていたのが、だんだんバイヤーチームみたいなのができてきて相談して決めるようになってきた。一応会社っぽくなってきてるんで(笑)。会社の理念とかビジョンを定義して社員に提示するとか、そういう会社っぽい仕組みを作ることもこの3年間でやってきたことですね。父親の時代にはそんなのなかったですもん。

で、店内でマイクパフォーマンスもよくやってたりするんですけど、何がいいかってことを語って売る。例えば、ちょっと障害を抱えている社会福祉法人の人たちの就労支援ってことで煎餅を焼いていたりして、美味しいんだけどパッケージが上手くないんですよ。しかも、その場所でしか売っていなかったり道の駅で売っていたりしても売れないんですよね。で、ちょっとパッケージのテコ入れをやって、箱はウチで用意して社会福祉法人の方が手焼きしてるってことを積極的に説明して売るなんてことをよくやってます。

「旅の駅 kawaguchiko base」の駐車場。“グリーンパーキング”という考え方を採用。10年後、20年後を見据えて設計されている。

差別化についてはいろいろあるけど、駐車場も“グリーンパーキング”という考え方なんです。最初は、ゼネコンがアスファルトをドーンみたいな(笑)。でもなんかこう、デザイナーとかが関わってくれたら、「ヨーロッパなんかは一歩先を行っていて、グリーンで土地が呼吸するところに車を停める」とか。駐車場に木がポチポチ立ってますけど、これはわざと立ててあって、10年20年すると木が大きくなって、車は木陰になるところに停まるようになる。そういう設計がしてあります。ヒートアップ低減とか、これ、自分たちの考えだけじゃなくて、途中からいろんな人が関わってくれて、いろんなことを助言してくれて。有り難いんですよ。

2022年8月に開業した富士河口湖町初のワイナリー「7c | seven cedars winery」。手前が自社のブドウ畑。
「7c | seven cedars winery」の内部。小さいタンクが並ぶのは、畑や作り手によって異なるブドウの個性を活かすための工夫。

― ワイナリーも富士河口湖初ですから、差別化の典型例ですね。

単なる小売りだけじゃなくて、自分たちのオリジナルワインも作ろうってことで始めたんですけど、これにも不思議な縁があって。サラリーマンをやってるときは研究室に行ってコンピュータとにらめっこしたり、機械をいじったり実験室で実験してたりして帰ってくるだけの生活だったわけですけど、この仕事を始めたら、ものすごいいろんな人との出会いが増えて、自分たちでも不思議なくらい。今回の剣縁さんもそうですけど、本当にいろんな人と付き合うようになって。

で、ワイナリーの栽培・醸造責任者が鷹野ひろ子さんって言うんですけど、大手のワイナリーで醸造責任者をやってた人で、『ワイナート』という雑誌で「日本の造り手100」に入ってるような人なんですけどね、大手で会社の方針に従って大量にワインを作るのに何となく飽きてきててどうしようかな・・・と思ってたらしくて、そんなときにある人を通じて知り合って、我々が始めようとしてるって話したら一緒にやりましょうかってことになった。で、びっくりなのは、鷹野さんがその翌日に会社に行ったら、いきなり同社の社長が社員に早期退職募集の話を告げたんだそうで。こんな感じの出会いが重なっていったんですよね。

「7c | seven cedars winery」オリジナルワイン。栽培・醸造責任者である鷹野ひろ子さんの「ブドウ生産者をクローズアップするようなワイン造りをしたい」という想いがラベルにも表現されている。

この鷹野さんが何をしたいかって聞いたら、「ブドウ生産者をクローズアップするようなワイン造りがしたい」って言うんですよ。ワイン造りって、どうもブドウ栽培者じゃなくて醸造家が脚光を浴びてブドウ栽培者は後ろに引っ込むらしい。なぜかと言うと、大量に作るために、例えばシャルドネの生産者からいっぱい買ってきて、いっぱい混ぜちゃうから、全部混ぜちゃうから、畑とか作り手の個性が消えちゃって平均的な味になるということ。鷹野さんは、「そうじゃなくて、同じブドウの品種でも場所とか作り手によって結構違いが出るから、それをなんか出したい」とか言って。すごい変わった、でも強い信念のある醸造家なんですよ(笑)。だから、タンクも小さいのがいっぱい並んでるんです。Aさん・Bさん・Cさんって別々に。

ワインのボトルを見てもらうとわかるんですけど、これも面白くて、これはひとつの例なんだけど、品種は甲州。色は鷹野さんが生産者さん毎に決めたイメージカラーがあって、「甲州 by Kazue & Shigenori Wakabayashi」さんが71%、「甲州 by Kikuo Wakabayashi」さんが29%で、ラベルの色の境目がその比率になってる。こっちだと「Satoyoshi」さんが58%で「Uchida」さんが42%だから、さっきのとは色も色の境目も違うでしょ。品種は全部甲州で、醸造の仕方も一緒。違うのはブドウ生産者の畑の場所と栽培の仕方ってだけで。味も違ってて、軽くてスッキリだったり、どっちかというとコクのある味だったり。面白いですよね。それぞれ合う料理も変わってきたりする。だから、ちょっと凝り性の人には好かれると思ってるんですよ(笑)。

でね、ブドウ生産者も、いままでの「作ったブドウを出荷して代金をもらったら今年は終わり」だったのが、自分の名前が出るという珍しいことになった。Wakabayashiさんからすると「これは俺のワインだ」ってことになって、「来年はもっといいブドウを出そう」っていうモチベーションにも繋がる感じになってて。ラベルのQRコードを読み込むとHPからWakabayashiさんの顔が出てきて、どこでどういう作りをしているといった情報も出るようにしていて、ワインの好きな人はそういうこだわりの強い人が多いので、他にはない楽しみ方になってると思います。

『ワイナート』は1998年12月創刊のワイン専門誌で、食やお酒にこだわる本格指向の人々へ、ワインを中心とした豊かなライフスタイルを提案するステイタスマガジン。「7c | seven cedars winery」のワインは2024年10月号の表紙にも取り上げられた。

それとこの「7c」のロゴ。これも世界文化遺産の構成資産になってる河口浅間(あさま)神社に樹齢1000年を超える天然記念物に指定された杉が7本あって、そこから「セブンシダーズ」つまり「7本杉」という神社から名前をいただいた形ですね。この富士山のデザインの上に伸びている線が杉を表していて、実際に境内のある場所から見るとこういうレイアウトで7本並んでるんですよ。線の長さが杉の木の高さの比になっているし、細かいですけど、1ヵ所だけ線が繋がってまして、根っこのくっついた夫婦杉ってのがひとつあるんですけど、そこまでデザインされてる(笑)。河口浅間神社って、平安時代の大噴火のときに富士山を鎮めるために京都の朝廷が宮司を派遣して建てた神社で、そのとき遣わされたのが伴秋吉。つまり僕の先祖。そんな由緒もあって、「神社を何か絡ませるのがブランディング的にいいんじゃないか」と提案してもらったんです。

― ワイナリーの前に広がっているブドウ畑は自社の畑ですよね?

そう。鷹野さんが管理してます。醸造のプロでブドウ生産者。職人ですよ職人(笑)。
農業って自然次第じゃないですか。醸造は3人チームでやってるんですけど、収穫になると手数が必要なんで、ボランティアとか社内の他部署で協力できそうな人は手伝うんですけど、「来週の土曜日」とか言ってくれるとみんなで調整するんだけども、「明日!」って感じなんですよ。ブドウ栽培って化学実験室みたいなもので、糖度や酸度がこのくらいになったら収穫ってのがあるんですね。計測しながら「まだまだ」ってやってて、「そろそろいい。天気予報は明日の夕方から雨だな」ってなると、「じゃあ、もう明日の午前。すみません、手伝ってください!」とか言ってくる。もう無理やりですよね(笑)。僕も先日丸一日やりました。でもね、結構ワインのファンもいて、インスタグラムで募集かけたりするんですけど、この前も埼玉とかからわざわざ「無報酬で手伝ってあげる」って何人か来てくれてました。自分が関わったものがワインになるのが楽しいっていうね。だからこのヴィラも、泊まりに来た方に対しては、ちょっと早めに来ればツアーもやるんですよ。畑を案内したり醸造所の中を説明したり、そういうのがあるので、それを目当てに泊まる人もいます。

2024年7月に開業したばかりの日本初のワイナリーヴィラ「7c villa & winery」。
全10室。長屋造りでも各部屋が独立感を感じられる設計。
各部屋2名利用の仕様だが、スイートには和室もあるので布団を敷けば4人でも泊まれるそう。
各部屋には専用の日本庭園がある。
「前の痕跡は、手垢ひとつたりとも一切残さない」と清掃も徹底されており、高級感の中で落ち着ける、そんな空間。
また室内にはコーヒー豆とコーヒーミルが置かれているが、「お客様はこだわりの強い人が多いから」とのこと。

― 今夜泊まらせていただくコテージはファミリーユースのイメージです。

コテージの方は戸建てが30棟くらいあるんですけど、最初は大学生がサークル活動で使うような感じだったんです。それを外観を黒っぽく改装したりロゴをちょっとカッコよく変えたりとかして。親しみを感じるような山のロッジ風だったものを、少し気取った感じというかちょっとシックな雰囲気に変えたりしてます。今日お泊りいただく部屋はまだロッジ風ですけど(笑)。

なぜこう変えたかというと、コロナ前は10人とか15人のサークルがドッと来てドンちゃん騒ぎって感じだったけど、そういうのがパタリと入らなくなった。もう家族だけ。コロナを境に旅行の人数単位がすごく小さくなった。じゃあってことで切り替えて、大部屋だったところに壁を作って個室に分けたりして部屋のレイアウトを変えたりしてるんですよ。同じ棟なんだけど定員を減らして、そのかわり客単価をちょっと上げさせてもらって。そういう風に軌道を変えました。毎年来てくれる東大剣道部の連中は遅くまで奇声を発するんで、ある時間帯以降は窓を一切開けさせない(笑)。

客層は、コテージはファミリー層で、ワイナリーヴィラは少しハイグレード側に振った。ワイナリーヴィラの方は、子育てがひと段落した50代くらいのご夫婦とか、あるいは子どもができる前の30代のいわゆるパワーカップル。ダブルインカムでちょっと収入に余裕があってワインも嗜むみたいな方が多いですかね。外国人観光客にも喜ばれています。

「カントリーコテージban」の夕暮れ時。各棟にBBQスペースがあり、炭火で楽しめる。
食材は持ち込みもOKだが、事前に予約すれば、やはり地元の老舗肉店と共同開発したメニューを味わえる。
朝食の“ゴロゴロ野菜の手作りポトフ”も優しくて美味しい。

― 地域ぐるみでの滞在型観光の推進の先頭を突っ走っておられますね。

そうは言ってもいろいろ課題はあって、例えば移動の問題。この町は、町の真ん中に湖があって移動が大変。ここは河口湖の北側で河口湖駅は湖の南側。インバウンド客は「旅の駅」にはそれほど来訪してないんです。来られないんですよ。河口湖駅周辺はまさにオーバーツーリズムでバスに乗れないくらい混雑してるんだけど、ラストワンマイル問題が深い。町に客室はたくさんあるけど、行きにくいということから、実際に利用できる有効な客室数はだいぶ少ない。

コテージの方は一応、自社でマイクロバスみたいなのを用意して送迎しているけど、「旅の駅」はそういうわけにもいかない。町にも声をかけて、「自動運転のバスとかを実験的にやろうよ」とかそういう話はしている。バス会社とか町、我々みたいな地域事業者、AIなんかを手掛ける会社とかでプロジェクトチームとしてみたいなことは話としてはやってますけどね。

あとトイレ問題。実はコンビニも1店舗やってるんですけど、そこなんかは完全に買い物目的じゃなくてにトイレ目的だけで利用されている感じ。トイレは汚れるし、使い方の分からない外国人がしょっちゅう詰まらせたりとか、そういうしわ寄せが民間に来てる。これって公共トイレが少ないからなんですよね。

きっと河口浅間神社が守ってくれてるんじゃないか

― 「自分ひとりでできるものではなく、いろんな縁で」というお話ですが、そんな簡単に縁に恵まれるものではないとも思います。心掛けておられることはありますか?

いや、これはね。この事業をやるようになって思うのは、心掛けとかじゃなくて、本当に不思議。不思議なんですよ。何か知らないけど、さっきの醸造家の話もそうだしデザイナーもそうだし、ポッとある人の紹介で入ってきたりして。結論としては、きっと神社が守ってくれてるんじゃないかとか、そのくらいの理由しかないんですよ。

「徳を持ってる」と言われても、「徳って二代後に跳ね返る」って聞いたことがある。とすると、私がいろいろやったことは息子じゃなくて孫にいく。きっと、私の祖父の行いがよかったんじゃないかな(笑)。

東大剣道部の新歓合宿を終えて。「最悪なんですよこの合宿」という苦行を乗り越えた充実感にあふれた一枚。
最後列の左から2番目、しっかりカメラに視線を向けておられるのが伴さん。

身体を張って一緒に苦しい思いをした連中との付き合いは財産

― 伴社長ご自身についてのお話を伺います。お写真を何枚かお持ちいただきましたが、これは皆さん楽しそうな一枚ですね。

この写真は新歓合宿を終えたときのものなんですけど、新歓合宿って最悪なんですよ(笑)。とにかくボロボロになるんですよ。足の裏はズル剥けになるし。これを無事に切り抜けた後に名札をもらえるんですね。よく頑張ったって。それが嬉しくて!ってそういう写真。毎日朝練と夕練、途中に授業。朝練は1000本素振りから始まって。初日とか2日目なんてもう腕が上がらない。でも人間ってすごくて、1週間終わった後はやたらと竹刀が軽い(笑)。やっぱり、仲間がいるから脱落できない。で、これを乗り越えるともう辞められない。これを乗り越えたんだからという連帯感も生まれてますしね。

京都大学との定期戦も忘れられない大変な思い出ですね。毎年交互にホストを務めるわけですけど、ホスト校が相手校をとことん接待する。そのために1年間、みんな必死にバイトするみたいな状態で。「あれをしたい、これをしたい」って言われたら断っちゃダメっていう暗黙の了解があって。組み合わせが作られて、相手が理系のやつだと実験があったりして早めに帰るんだけど、文系のやつを受け入れたら2週間くらい居座られたりする(笑)。

剣道と接待の両方で威信を賭けた戦いが繰り広げられる京都大学との定期戦。東大(白道着)の最後列右から4番目が伴さん。

僕は小学5年で剣道を始めたんですけど、当時は野球か剣道かみたいな時代。狭い地域だけど割と剣道は盛んでしたよ。道場じゃなくてスポーツ少年団で、毎週火曜と木曜の放課後にやってたかな。そのまま中学では剣道部に入ったんですけど、高校3年間は剣道から離れた。やりたかったんですけど、なんせ通学だけで電車で往復3時間かかるんで、稽古してたら続かない。

― 東大で剣道をやろうという想いをお持ちだったんですか?

そうは思ってなかったですね。東大剣道部に入ったきっかけは、たまたま帰省していたときに、当時東大の師範をやってくださっていた小沼範士が山中湖の道場に来られていて、ある知人が引き合わせをしてくれたんですね。で行ってみたら、小沼先生から「お前、東大か?地元か?入らないか?」みたいな感じで言われたんで、「はい、わかりました」って感じでスルッと入っちゃった。だから同期より少し入部は遅くて、入ったらいきなり、さっき話した新歓合宿だった(笑)。

東大時代は日本武道館でやるような試合のレギュラーには入れませんでした。でも七帝戦とか防衛大学との対校戦なんかでメンバー入りしたことはありました。それでもファナックでも30代前半までやってましたよ。富士通、古河電工、東芝日野との対抗戦にも出ていて、大将を務めて優勝したこともあります。ファナック剣道部は10人に満たないくらいの規模でしたけど、好きなやつが集まって週2回は汗を流してましたね。忍野村の村民体育館で、前半は自分たちの稽古、後半の地稽古では地域の子どもたちを受けてあげたり。でも、企業対抗戦の試合中にアキレス腱を切っちゃったんです。30代になって管理職になって練習量が落ちてるところで、職場の若い女の子が応援に来てくれてたもんで、張り切って飛びすぎた(笑)。面を打って振り返ったときに後ろから棒か何かで叩かれた感じがしたんですよ。「え?」って思ったらあらら・・・みたいな。そしてしばらくブランクができてしまいました。

卒業の記念写真。上が詰襟で下がグレーのスラックスという東大伝統の正装。前列左から2番目が伴さん。

― 伴さんの復活を期待する声もあるんじゃないですか?

いまも「子どもたちの指導をやってよ」と声はかけてもらうんですけど、社長業をやるようになって時間を捻出するのがどうにも難しくて。息子にも剣道をやらせましたし、東大とファナックの名札もまだ持ってますよ。社会人になったときに買った結構いい防具もありますから、剣道自体から気持ちは離れてないです。

個人会員特典

店舗名河口湖カントリーコテージBan
特典河口湖カントリーコテージbanに宿泊する際に、剣縁個人会員を含む1グループにつき、
7c winery のワイン “Gathering”のハーフボトルを赤白1本ずつ進呈。
※河口湖カントリーコテージban のインフォメーションで、
チェックイン時にデジタル会員証を提示して、特典の受け取りを申し出てください。
所在地〒401-0304 山梨県南都留郡富士河口湖町河口2092
TEL0555-76-8090(9:00~18:00)
0555-76-8088(18:00以降)
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