男子日本代表のパリオリンピック出場に沸いた2023年の日本バレーボール界。
代表選手も多く参戦する「V.LEAGUE(Vリーグ)」の中でも最高峰の舞台とされるのがV1リーグ。
選ばれし10チームが参戦するV1リーグで奮闘するのが、長野県上伊那郡南箕輪村を本拠地とするVC長野トライデンツです。
今年7月、チームの運営会社である株式会社VC長野クリエイトスポーツの代表取締役社長に就任したのは剣道七段の大矢芳弘さん。自身にバレー経験はないという大矢さんが、なぜV1リーグに参戦するチームを率いるようになったのか。
大矢さんにお話をうかがいました。
プロフィール
VC長野トライデンツ: https://vcnagano.jp/about/
村を拠点に活動する「サラリーマンVリーガー」たちが
日本最高峰の舞台で戦う!
──日本の男子バレーボールリーグ最高峰であるV1リーグ(男子)で戦う「VCトライデンツ」の運営会社・株式会社VC長野クリエイトスポーツの代表取締役社長を務める大矢さんですが、ご自身は剣道七段の腕前を誇る剣道家。バレーボールと剣道という異色の組み合わせが興味深いです。
私が代表取締役社長に就任したのは今年(2023年)の7月のことなんです。もともとVC長野トライデンツは2008年に「VC長野グロース」として産声をあげました。その後、チーム名の変更を経て、4年前からはいよいよ日本最高峰のV1リーグに参戦。この7月に株式譲渡等を経て新たな代表取締役社長として派遣されたのが私というわけです。
─大矢さんご自身はこれまでの人生でバレーボールとの接点は?
オリンピック本戦やその予選など、話題になる重要な試合はテレビで観戦していましたが、自分自身でプレーをしたことは学校の授業でやったことがあるだけです。
──それでは代表取締役社長就任の依頼があったときには驚いたんじゃないですか?
最初に話を聞いたときにはもちろんビックリしましたが、実はそんなに抵抗感はありませんでした。まず頭に浮かんだのは「なかなかできる経験じゃないよな」ということで、どちらかというと興味のほうが強かったです。
──それでは新社長にぜひVC長野トライデンツの魅力を紹介していただければ。
VC長野トライデンツは長野県上伊那郡南箕輪村を拠点に活動しているわけですが、そもそもまだ発足して間もない頃から南箕輪村村民体育館を貸し出していただいているというご縁があるからです。現在でも村民体育館はチームの大切な練習場所として使用させていただいています。
そういった練習環境もV1リーグに参戦しているチームの中では異色ですが、さらに特徴的なのがチームのメンバーたち。バレーボール界では企業傘下のチームが多いなか、VC長野トライデンツは独立採算制のクラブで、選手の多くはサラリーマンなんです。日中に仕事をしながら空いている午後や勤務後の夜などの時間に練習をしています。二足のわらじを履く「サラリーマンVリーガー」ということでファンの方々から親近感を持っていただいていますし、地域に密着して活動しているということで地元からの熱い応援をいただいています。
チームを率いる川村慎二監督は、ご自身は強豪のバナソニックでプレイヤーとして活躍、その後は監督として同チームをVリーグ二連覇に導いた実績があり、現在メンバーのうち日本代表に選出されている選手も二人在籍しています。昨シーズンの成績は10チーム中9位でしたが、今シーズン、チームがどのように這い上がっていくのか、その姿をぜひファンの皆様には見届けていただきたいと考えています。
チームのメンバーともコミュニケーションを取っていますが、選手たちはプライベートでは皆いい青年ばかりですし、いざ練習となれば監督、コーチたちも厳しく指導をしつつ選手もそれに応えるかのようによく声が出ている。私自身はそもそも仕事がきっかけで彼らとの交流を図るようになったわけですが、仕事上の立場は別としても彼らの人間性や努力はやはりとても魅力的に映りましたね。
──剣道の世界もまた警察官、教員、そして実業団が三本の大きな柱となる純粋なるアマチュアの世界です。そういった意味では剣道界の皆さんからしても応援しやすいチームかもしれませんね。
新社長である大矢さんが今後取り組むべき仕事、そして課題なども教えてください。
基本的にチームづくりに関しては、プレーヤーとしても、監督としても、経験豊富な川村監督にお任せしており、社長としては企業として売上・利益を出すことが重要な仕事です。そのためにフロントスタッフ側でやるべきは、大きくはスポンサー様の対応とファンの獲得のふたつ。
やはりスポーツチームである以上、スポンサー様からのご支援が非常に大きい要素となってくるわけですが、会場への集客がなければ、つまりファンの皆様にご来場いただけなければ、スポンサー様も自然と離れていってしまいます。
基本的にVリーグではホームゲームでの入場料収入がチームの収入となり、我々の場合ですと長野県で開催される試合となるわけで、ファンの皆様には長野まで足を運んでいただかなければなりません。おかげさまで地元のファンの皆様に支えられ、なんとかここまで来れている状況ではありますが、もっとその輪を広げていく必要は感じています。
たとえば今年、バレーボールの男子日本代表がオリンピック出場を決めて大きな話題となりました。いまが認知度を高める絶好のチャンスとも言えますが、日本代表戦だけでなく、Vリーグにもいかにファンの皆様に足を運んでいただくか、いまはまさにその試行錯誤をしてなかでのアピール方法としてはやはり草の根的な活動をするしかないのかなと考えています。SNSはいまや重要なツールではありながらもやはり興味のある物事しかチェックしないという傾向もあると想定される。もちろんそこのフォローは怠りはしませんが、まずは長野県内の大きな都市などで看板なり広告なりビラ配りなどを展開して、認知度を高めていくことを強化していきたいと考えています。
──競技である以上、チームの強さ、試合の勝敗もスポンサー、集客に大きく影響するものでしょうか?
私も昨シーズンまでを経験したわけではないのですが、それはかなり大きいようです。Vリーグの試合は土曜日、日曜日に開催されますが、たとえば土曜日の試合でいい試合をすれば、翌日のチケットが多く売れることもあるようです。V1リーグは、1年後の2024-2025シーズンから「S-Vリーグ」という新リーグになりますが、競技面での強化は当然として、ライセンス取得には売上基準などもあり、現在の当社は一歩うしろにいる状態ですが、S-Vリーグで戦うためにも、チーム・スタッフとともに一丸となって前に進んでいかなければなりません。競技面・財務面はコインの表と裏で、一方の強化がもう一方の強化になると考えています。
ついに新シーズンスタート!
「まずはチームの存在を知ってほしい」
知ってほしい」
──大矢さんの現在のお住まいは?
いまはチームの本拠地である南箕輪村に単身赴任中で、月に一回程度東京に戻るような生活を送っています。
──大矢さんご自身のこともおうかがいしたいのですが、もともとのご出身は?
生まれは東京で、3歳の時に千葉県勝浦市に引越しました。
──勝浦市といえば剣道を専門的に学ぶことができる国際武道大学がありますね。
まさにうちの父親がその国際武道大の教員だったんです。父は東京教育大学(現筑波大学)の出身で、専門が剣道でした。
──それでは剣道はお父様の影響で?
剣道は小学2年生から始めたのですが、もともと父からは「小学校高学年あたりから始めればいい」と言われていたんです。始めたきっかけは当時仲の良かった友だちが「剣道をやる」と言い出したから。それで勝浦にあった日本武道館研修センターで剣道を始めることになりました。
当時から苦しい稽古はキライでしたけど、それでも中学、高校でも剣道部には所属しましたね。中学校から受験をして、進学したのは立教中学と立教高校(現立教新座高校)。私の在学当時は中学校は池袋に通って、高校は埼玉県の新座市に通いました。最近は立教新座高校はインターハイに出場するなど活躍していますが、私たちが現役だった時代は埼玉県でベスト16に一歩届かずでした……。大会での戦績こそ振るいませんでしたが、それでも恩師となる原義克先生(教士八段)との出会いは私の中では大きな出来事でした。また、中学時代から、父親の大学の先輩である高橋清司先生(拓殖大学監督などを歴任)が創設された宥辰館にも通っていました。中・高時代にお二人の先生を中心に、厳しく鍛えていただいたからこそ、今の自分があると思っています。
大学受験では一浪しましたが、東京大学に進学しました。大学でも剣道部に入学したのは、高校時代から学生大会に憧れがあったから。高校生の時に立教大学の応援ということで関東学生剣道優勝大会を見学に行ったのですが、日本武道館の雰囲気とそこで試合をする先輩方の迫力を観て「カッコいいな」って。
学生時代は1年生からレギュラーに選んでいただいて試合には出場することができました。大会で活躍することはできませんでしたが、日本武道館で試合をすることは出来ましたし、剣道部のコーチを務めてくださっていたのは、岡村和典先生(東京教育大卒)、佐藤勝信先生(元警視庁主席師範)、寺地種寿先生(元警視庁主席師範)の一流の先生方です。佐藤先生・寺地先生は、現在は範士八段の大先生ですが、当時は40歳を超えたばかりのご年齢で、私が1年生の時には全日本選手権に出場されています。
いまになって思えば、学生時代を通して、このような先生方にご指導を仰ぐことができたのは非常に恵まれていたのだなと。岡村先生、高橋先生は亡くなられてしまいましたが、佐藤先生、寺地先生、原先生には最近でも稽古をつけていただく機会に恵まれています。各先生とも、当たり前のことですが、強い強い……。
大学を卒業後は、生命保険会社に就職しまして、そこでも剣道部に入部して実業団大会には出場しました。その間の稽古は主に当時の住まいの近くの道場だったり、母校東大剣道部に顔を出していましたね。
た渋谷区の金王道場に通うようになり、前述の宥辰館含めて、単身赴任になる前まで、その3カ所を中心に継続して稽古に通っていました。2019年から縁あってメルコホールディングスに転職して、そこでは株式会社バッファローに勤務。メルコは実業団剣道部があるので月に2回ほどのペースで剣道部の稽古にも参加し、3カ所+会社が日常的な稽古場となっています。
──現在でも大会には積極的に参加しているとか。
いちおう、全日本選手権、全日本都道府県対抗優勝大会、国体などの東京都予選には出場しています。どの大会も有名な選手たちが出場してくるので、そういった人たちとしっかりぶつかってしっかり負けています(笑)。最初は強い選手と戦って負けることへの恥ずかしさがありましたけど、いまはそれも乗り越えましたね。
試合の結果については、東京都の剣道道場対抗大会で個人2位、あとは全日本都道府県対抗予選の副将の部でベスト4まで上がったことがあります。力がないのは誰よりも自分がわかっているのですが、ときたま勝利が落ちてきたりするのはうれしいことです。
今年7月からは生活拠点が南箕輪村となりましたから、なかなか東京の道場に通うことはままなりませんが、長野にも防具は持ってきていて先日南箕輪村の稽古にも参加させていただきました。稽古場所はVC長野トライデンツも練習で使う村民体育館です。
それもあって、参加者の方々には「VC長野トライデンツの社長さんなの⁉︎」と驚かれることも多いですし、稽古のあとに挨拶に集まってくれた小学生たちに「VC長野トライデンツって知ってる?」と尋ねればみんな元気よく手を上げてくれたり。そういう新たなつながりができたことは個人的にはとてもうれしいですね。
──今シーズンのVリーグもいよいよ10月からスタートだそうですね。
毎週の試合の結果に一喜一憂する日々が始まります(笑)。
社長としては新たなスポンサー様も獲得したいし、ファンの方々にはファンクラブに入っていただいて、ホームゲームに足を運んでいただき、オフィシャルグッズなども購入してほしいのが本音です。欲を言えばキリはないですが、まず私としては皆さんには、地元を愛し、仕事をがんばりながらバレーボール日本一を目指すチームがあるということを知っていただきたい。それが私の願いです。
住所 | 〒339-4511 長野県上伊那郡南箕輪村5197-1 株式会社VC長野クリエイトスポーツ |
電話 | 0265986812 |
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