鉄鋼メーカーの3代目が見据える未来。高度な知識とノウハウを武器に、建築現場の価値を高める(向山 敦 / 未来建築研究所株式会社 代表取締役)

戦後日本の経済発展を支えた鉄鋼業。「鉄は国家なり」が象徴するように、他産業のベースにもなる国の基幹産業です。

株式会社向山工場は、日本に約50ある鉄鋼メーカーの一つ。70年以上の歴史を誇り、長いあいだ日本の鉄鋼産業を支えてきました。今回インタビューをした向山敦さんは、向山工場の代表取締役副社長を務めます。

鉄鋼会社の3代目は現在の鉄鋼業界をどのようにとらえ、事業展開をしているのでしょう。向山さんの代で新たに設立した未来建築研究所株式会社の事業内容を中心に、お話を伺いました。

プロフィール

向山 敦(むこうやま・あつし)

1972年埼玉県出身。学習院大学経済学部卒業後、英国イーストアングリア大学で国際関係学をディプロマコースで修了。帰国後は兼松(株)に勤務し、2002年から家業である(株)向山工場に入社。2006年にウィンファースト(株)に出向し、2014年に代表取締役社長に就任。2015年に未来建築研究所(株)を設立し代表取締役社長を兼務。

剣道は高校から始め大学も継続。商社時代は兼松剣道部に所属。現在三段。

株式会社向山工場 / ウィンファースト株式会社 / 未来建築研究所株式会社

鉄筋に関する高度な知識とノウハウを、建築の現場に活かす

──向山工場の事業内容について教えていただけますか?
向山工場はいわゆる鉄鋼メーカーです。一般的にはあまり知られていないかもしれませんが、鉄鋼メーカーは「高炉」と「電炉」に二分されます。弊社は「電炉」の鉄鋼メーカーですね。

鉄くずを溶かす電炉

日本の鉄鋼メーカーは約50社、そのうち大手3社は高炉メーカーです。シェアは高炉が約75%、電炉が約25%を占めます。

脱炭素SDGsの観点から近年は電炉の活用意義が高まっているんですよ。高炉メーカーが鉄鉱石と石炭を主原料にしているのに対して、電炉メーカーは鉄くず(スクラップ)を主原料リサイクルしています。製鋼工程で発生するCO2排出量も高炉と比べ少ないのです。

弊社が扱う鉄鋼製品は、建築用鉄筋コンクリート用棒鋼(異形棒鋼)高強度せん断補強筋です。鉄筋コンクリート用棒鋼は、皆さんも工事現場などで見たことがあるかもしれませんね。ちなみにもう一つの主力商品である高強度せん断補強筋は、弊社は日本でトップシェアを獲得しているんですよ。

──素晴らしいですね!ウィンファースト株式会社と未来建築研究所の事業内容についても教えていただけますか?

ウィンファーストは、鉄筋コンクリート用棒鋼(異形棒鋼)を販売する会社です。2006年6月に三興製鋼と向山工場が販売部門を独立させて共同設立しました。

我々の鉄筋は、関東圏で3割以上のマンションやオフィスビル、戸建てなどで使われています。

未来建築研究所は、業界でいうと建築・設計ですね。「構造設計・監理」「施工企画」「鋼材加工組立」「VE提案と販売」「各種コンサルティング」がメイン事業です。

──構造設計とはなんですか?

構造設計とは、建物の強度や安全性の確保を行う仕事です。建築物を造る際は、どんな規格で何階建てにするかなど細かく検討をする必要があります。用途別の建物の荷重、地盤の状況、風力等から、どのような規格の鋼材・コンクリートを使用すればいいか強度を計算して提案するんです。

「施工企画」では、現場目線の施工図面と統一ルールの作成を行なっています。そうすることで、現場の方々が効率よく工事を進めることができます。特に大型建築の現場は関わる人が多いため、ルールや共通認識がしっかりしていないと揉めるし、手戻りが発生してしまうので…。

──VE提案とはなんでしょうか?

VEはValue Engineering(バリューエンジニアリング)の略で、自社の技術を元に、性能や機能を低下させずに総合的な価値を上げる提案をすることです。

弊社には向山工場とウィンファーストで培った鉄筋に関する高度な知識やノウハウがあり、頼もしいパートナー会社も沢山いるので、設計から施工、維持管理まで一気通貫で行える点が強みですね。

向山工場の鉄で作られたパター

自らの経営方針で人材を育て、組織を大きく強くしたい

──高校・大学時代のお話を伺ってもいいでしょうか?

僕は中学から学習院に通っていて、大学までそのまま学習院に進学しました。

中学はテニス部に所属していたのですが、武道をやりたかったので高校・大学では剣道部に入部しました。

華やかな戦歴はありませんが、ひたむきに自分と対峙した日々はとても良い思い出です。学習院は、大学生の先輩方がコーチとして稽古に来てくれるのですが、厳しくも優しく、愛がありました。

社会人になってからも剣道は継続
実業団に出場した際の写真

大学卒業後はイギリスの大学に留学し、帰国後に1996年から2002年まで兼松株式会社に勤め、鉄関連の商材を扱いました。

商社勤務もとても楽しかったのですが、小さい頃から「いつか家業を継ぐんだろうな」と漠然と考えていました。父からも「そろそろ家業に入ってほしい」と声をかけられ、2002年に向山工場に入社しました。現在、僕は代表取締役副社長で、代表取締役社長は兄が務めています。

──向山工場の他に会社を立ち上げたのはどうしてでしょうか?

向山工場で働くうち、別会社をたてて色々な挑戦をする必要があると考えたためです。

僕は向山工場に入社後、1年かけて会社の工場を回りました。当時、向山工場では鉄筋はJIS規格のものしか作っていなかったのですが、僕は国土交通省の大臣認定品で新製品を作りたかったんです。専門の先生に顧問になっていただき建築について勉強し、開発を進める過程でエンジニアも増員しました。

しかし、当時の向山工場では開発・拡販のためにさらにエンジニアを増員する考えは受け入れられませんでした。また、ちょうどその時期には自分で経営方針を作り、人材を育て、組織を大きく強くしてみたいと考えるようになっていました。そこで、向山工場に資本の10%を出資してもらい未来建築研究所を立ち上げたのです。

先ほどお話しした鉄筋は、普通より3倍ほど硬い高強度鉄筋で、高層の建物の安全を担保したり、コンクリートの断面を小さくもできるのです。このため、「住居空間を広く使った設計ができますよ」、「過密に鉄筋を入れなくてすむので、高品質な建物を、施工性高く提供できますよ」とお客様に提案をさせていただいています。

高い技術を持つ職人さんや業界で働く人々の価値を高めたい

── 未来建築研究所は、コンサルティングもしているのですか?

そうですね。未来建築研究所には様々な業界のプロフェッショナルが揃っているので、各種コンサルティングも行なっています。未来建築研究所の社員は18人ですが、山梨県のPCメーカーさんの工場の中で、加工工場をお借りして、6名で鋼材加工組立の内製化を担当させていただいています。鉄筋屋加工屋さんとは、工場の組織作り、生産性向上に取り組んでいます。

ちなみに、一昨年から新しい製品も扱っています。 『プロコンシート(透水性コンクリート型枠シート)』といって、コンクリートの品質を向上させるシートです。

コンクリートはたくさんの水分を含んでいるのですが、乾く過程で空気がコンクリート表面にピンホールとして残ってしまうんです。このシートは水分を吸い取ってくれるので、仕上がりの表面が綺麗なんですよ。コンクリートの長期耐久化にも有効です。

もともと関西の左官屋さんが開発したもので、その性能に感銘を受け「一緒に売りましょう」とお声がけして販売することになりました。こういう製品は、どんどん世に広めていきたいですね。

──商社のような動きもしていらっしゃるんですね。

ええ、もともと商社にいたことも影響しているかもしれないですね。最近ではさらにもう一つ、『タフマックス(水性無機塗料)』も販売しています。鋼材向けの錆止め用とコンクリート向けの劣化防止用の塗料なのですが、これも本当に良い製品です。

塗料って面白いんですよ。通常、皆さんが目にしているのは「有機塗料」と呼ばれ、石油由来の素材でできています。紫外線で劣化して、年月が経つにつれて剥がれていきます。さらに、VOCという揮発性の高い毒性の蒸気がでます。労働環境にも悪いし、近隣住民には迷惑です。

いま僕らが販売しているタフマックスは水性無機塗料。自然界にあるものでできているので、有害なものは入っておらず、環境にも人にも優しいです。空気は透過するけど、水は通さない。呼吸ができるセラミック層をつくり、コンクリートや鋼材の高耐久化を実現します。

通常の合成塗料は5回くらい塗る必要がありますが、タフマックスは2回塗りで済むんです。しかも一度塗ったら密着して剥がれません。CO2も出ないし、紫外線で劣化もしないんです。

ちょうど交換時期だった8年前に向山工場で塗ってみました。

こちらは最近撮った写真ですね。タフマックスと一般防錆塗料を塗っている部分の差が、一目瞭然です。このダクトは、製鋼建屋から空気を引くので、800度位の塩素を含んだ空気を通す非常に厳しい環境にさらされています。

ちなみに、歌舞伎座の外壁にも塗られています。雨水によるセルフクリーニングが可能な塗装剤として採用されました。VOCが発生しないので、臭いもなく施工でき、工事中に通行人の方々に不快な思いをさせることがなかったそうです。

約10年前に塗布しましたが、その後一度も塗り替えておらず綺麗な表面を保っています。

2021年11月撮影

──シートも塗料も、本当に良い商品に出会ったんですね。

建築業界はスキルが高い方や職人さんが多いのに、営業が苦手でなかなか日の目を見ないことが多いんです。こんなに素晴らしい技術を持っているのだから、なんとか彼らの力になりたかった。

未来建築研究所で実現したいことは、僕らが軸となって色々な人や商品を結びつけ、価値を生み出すことなんです。そうすればきっと、弊社の社員だけではなく取引先や職人さん…一人一人の価値がもっと上がっていくと思うんです。

社名にもその気持ちを込めています。お互いの利益を高め、幸せの実現を目指すことが、きっとより良い未来につながると信じています。

鉄鋼の製造から建築の現場まで、様々なことに挑戦したい

──今後の展望について教えていただけますか?

向山工場としては、上流と下流への事業進出が必要になると考えています。同時に、脱炭素社会に向けた取組強化も急務ですね。

ウィンファーストは、現在は組織づくりに力を入れています。人を育てるのは簡単ではなく、ずっと一人で悩んでいたのですが、意識構造学(識学)をベースに会社のルール作りや会議のやり方を変えたところ、非常に良い方向に変化したんです。

──未来建築研究所についてはどうですか?

建築事業を軸に色々なことに挑戦しながら、社会に貢献していきたいですね。

今後チャレンジしたいのは、システム開発です。建築の現場には『一貫構造計算プログラム』があって、設計者が必要な数値を入力すると自動で計算をしてくれるんです。

ちなみに、2005年に世間を騒がせた姉歯事件は、この構造計算書を偽造したものです。姉歯事件を受けて、現在は偽造されないプログラムが使用されています。

この『一貫構造計算プログラム』を活用して、建築施工現場までシステムで繋げ、建築業界の生産性をさらに高めたいですね。商業化するにはまだまだ課題がありますが、手戻りを防ぎ省力化したプログラムを作り上げていきたいです。

──鉄鋼から始まり、建築の現場のことまで色々なことに挑戦なさっているんですね。

製品開発は時には失敗してしまうこともあります。当初想定していなかった事態が起こって、なかなか計画通りに進まなかったり、製品化できないんじゃないかと、閉塞感に苛まれた時もありました。でも諦めなければいつか成功します。挑戦する気持ちを忘れずに、誠実に仕事に取り組んでいきたいですね。

──インタビューを通じて、社員や職人さん、建築現場の方に対する向山社長の温かい思い遣りを感じました。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

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