AIで実現したい 危険を予知する「第六感」(丸茂正人 / ai6株式会社 代表取締役CEO)

剣道が持つ「非日常性」に魅了され、42歳で竹刀を握った丸茂正人さん。

57歳になった現在でもその情熱は持続中、週に2回の稽古を欠かしません。

そんな丸茂さんが代表取締役CEOを務めるai6株式会社が提供するのは、Wi-Fiセンシングを利用したセキュリティサービスです。

最先端技術を駆使して、ユーザーの安心・安全を確保しつつ、さらにその先に見据えているのはある大きな社会課題の解決でした。

プロフィール

丸茂正人(まるも・まさと)

1965年東京都生まれ。慶応義塾高校(神奈川)、慶応義塾大学出身で、高校時代はアメリカンフットボール部に所属。大学卒業後、日本興業銀行に就職し、その後は投資会社勤務、M&Aアドバイザーなどを経て、米Origin Wireless社の役員に転身。2017年よりOrigin Wireless Japan株式会社代表取締役に就任。2022年1月に、現在代表取締役CEOを務めるai6株式会社を立ち上げる。42歳からはじめた剣道は現在四段。

ai6株式会社

https://ai6.jp/

Wi-Fi電波を使ったセキュリティサービスを展開
その将来性は無限大

──丸茂さんが代表取締役CEOを務めるai6(エーアイシックス)株式会社は、Wi-Fiから発せられる電波を使って人の状況や空間を認識する技術、Wi-Fiセンシングの開発とそれを利用したサービスを提供していらっしゃるんですね。

 そうです。技術自体はアメリカのメリーランド大学のRay Liu教授が発明したもので、それを利用してなにができるかと考えたとき、いま日本で一番必要とされているアプリケーションのひとつとして行き着いたのが「高齢者の見守り」でした。コンセントにふたつのデバイスを差し込んでアプリのセットアップを行なうだけでその空間全体をくまなく見守ることができます。

 最初の商用展開としては、今年(2023年)1月に警備・セキュリティサービスの大手・セントラル警備保障株式会社(CSP)さんが「CSPライトセキュリティ」という新たなサービスを発表されていますが、その基本技術は我々が提供させていただいております。

 日本の機械警備(施設に設置されるセンサーによる警備)の加入率は、現在、総世帯数全体の一割にも届きませんが、それは9割の方がセキュリティを必要としていないのではなく、初期費用が高いためだと想定しています。そこで我々がCSPさんにご提案させていただいたのがWi-Fiセンシングを利用した手頃なセキュリティサービスで、より多くの方に安心・安全をお届けすることを目指しています。

 また、沖縄県では沖縄電力さんのご協力を得て、一人暮らしの高齢者の見守りサービスの試験展開しています。離れて住む子供世帯に対して、沖縄の親御さんの様子を24時間/365日、手軽にモニタリングできるようになっています。勿論、カメラを使わないので親御さんのプライバシーを守りつつ、スマホ操作やウエアラブル装着などの余計な手間もかけずにです。

 現在、我々のサービスのアプリケーション自体は弊社の販売サイトでも購入できる状態ですが、これについては現段階では実はまだあまり積極的に宣伝はしていないんです。

──どういった理由からでしょう?

 このアプリケーションはもちろんいまの時点でもセキュリティ、見守りサービスとして充分にご活用いただけますが、我々としてはこれをさらに進化させたところでマーケティングに費用をかけたいと考えているからです。

 現時点では空間全体での人の動きが確認できるわけですが、その詳細は全てデータとして取れています。このデータはスマートホーム(IoTやAI技術を活用して快適な生活を実現すること)に参入しようとしているすべてのサービスプロバイダーにとって不可欠な貴重なデータになります。これをサービスプロバイダーに提供していくことをベースのビジネスにしながら、我々としてはそのデータを蓄積させ、ディープラーニング系のAIアルゴリズムを開発・適用していくことで「予兆の検知」をしたいと考えています。具体的には大きな社会課題となっている生活習慣病、とくに糖尿病と認知症をムーンショット・プロジェクトと考えています。

 たとえば独居の高齢者の方に認知症の症状が出たとしても自分一人で自分の状態に気がつくことは難しい。周りがやっと気がついた頃にはもうすでに治療が難しいというケースは非常に多いようです。もしそこで認知症の初期的な予兆を検知することができれば、早期に診察にうながし、治療し予防することができるのではないだろうかと。

──動きのデータからそれが解析できると?  

という仮説です。我々が取り組んでいるアプローチでは、調べた範囲のなかではまだ誰も実現していません。「まだ誰もいない」ということはもしかしたら「実現できない」ということなのかもしれませんが、もし実現できたならば大きな社会課題の解決になる。一人の認知症の方にかかる社会的コスト(医療費だけでなく、ご家族が仕事を休んで介護する場合の間接コストなども含む)は年間400万円を超えるとの調査結果もあります。今後数年で100万人以上が認知症になるとの想定の中、その1%でも予防できれば、ご本人のQoL(quality of life)の向上は勿論のこと、社会的コストの抑制にもインパクトを出せます。いまの日本の高齢化のペースは人類が経験したことのない領域に入っているので、持続的な高齢化社会の実現のためにも、とてもチャレンジしがいがある、意義ある取り組みだと感じています。

現在はセキュリティサービス、見守りサービスを中心に事業を展開しつつも、大きな社会課題である生活習慣病の予兆の検知も視野へと入れている

紆余曲折を経て
2022年にai6誕生

──丸茂さんご自身は研究者でもなく、Wi-Fiルーターのメーカーの方でもセキュリティサービスでも医療の分野の専門家でもなく……。

 そうです、「この技術はスゴい!」と思っている普通の人です(笑)。もともとの話をすれば、我々の会社はメリーランド大学の教授が発明した技術を商用化するために2017年につくられたアメリカのベンチャー企業・Origin Wireless社の日本の子会社なんです。

 私自身はその当時はあるグローバルな投資会社の日本の代表を務めていたのですが、教授とご縁があって彼が来日したときに話を聞く機会があったんです。その話を聞いているうちに「これってかなりスゴいことなんじゃないか?」と感じて、慌てて通信技術に詳しいエンジニアの人と教授のラボを訪問して詳しい話を聞いてもらった。するとその人も「そんなことってできるの? ノーベル賞モノじゃないの?」って言い始めたんです。そんな出会いをきっかけに最初は私は思い切ってOrigin Wireless社に転職し、彼らと接点ができるようになりました。

 向こうのメンバーは、教授とその研究室上がりの博士ばかり。彼らの研究テーマは「シグナルプロセシング」で日本語では「信号処理」と言うのですが、メンバーはその分野ではそれこそ世界一レベルの研究者揃いだったのですが、ビジネスにはまったく縁のなかった人たちでした。だからこの技術をどう商品化しようかという話になるとみんなポカンとしている。そこで彼らと話を進めていって、「まずはホームセキュリティをやりましょう、しかしそれだけでは狭いのでいろいろな分野に進出できるようにプラットフォームをつくりましょう」と。教授たちは研究を中心に、我々は販売中心に動くことになり、日本でマーケティングを展開するための完全子会社として2017年に私も含めた5人のメンバーでOrigin Wireless Japan株式会社がスタートしました。

──現在のai6が設立された経緯は?

 アメリカのラスベガスで毎年1月に開催されるハイテク技術見本市「CES」というイベントがあるのですが、2021年のCESでこの技術がイノベーションアワードという最高賞を獲得し一気に注目が集まりました。それをきっかけにベライゾン・コミュケーションズというアメリカの最大手の通信キャリアからの出資を受け、その影響からOrigin Wireless社は国内事業に集中せよという話になったんです。

 しかし、我々としてはすでに日本のお客様に対してビジネスの話を進めている最中でしたら急に「やめる」と言われても困る。そこで2021年末にメンバー5人で親会社から株を引き取り、その後いろいろな交渉の末、日本マーケットにおけるライセンス契約などをまとめ、2022年1月からフレッシュスタートしました。ai6という社名は「AIを使って、まるで“第六感”のように離れたところをセンシングする」という思いから私がつけたものです。

銀座最大級の商業施設・GINZA SIXの13階にあるコワーキングスペースをオフィスとして利用、活動の拠点としている

42歳で握った竹刀
「非日常」の魅力で心身を整える

──丸茂さんご自身のこともおうかがいできれば。もともとのご出身は?

 東京都の生まれですが、父が商社勤めだったこともあって3歳から9歳までまでの間はイタリアに。そのあと両親はイタリア在住のまま私自身は日本に戻ってきて2年間は祖父母の住む山梨県で生活しました。ちょうど中学生になるときに両親が戻ってきて、それからは東京で暮らすことになり、高校と大学は慶応義塾に通いました。大学卒業後は日本興業銀行に入って10年ほど勤め、それ以降は主に投資会社で働いてきましたね。

──剣道との出会いは?

 初めて竹刀を握ったのは42歳のときです。もともと高校時代にはアメリカンフットボールをやっていて、附属校ということもあって大学でもアメフト部に入部したのですが体を壊して結局退部することになりました。それ以降はとくに運動をすることもなく過ごしていたのですが、当時小学2年生の息子が「剣道をやりたい」と言い出して、その頃住んでいた国立市の道場に彼を送り迎えをするようになりました。

 あるとき保護者として子どもの試合を観に行く機会があったのですが、少年の部のあとに一般の部が開催されていて、そこで初めて大人同士の試合を目のあたりにしたんです。大の大人が奇声を発して必死に相手に打ち込む姿を見て「なぜこの人たちはこんなに必死に戦うんだ⁉」と。その迫力と真剣さに衝撃を受けて自分も剣道を始めたくなったんです。

──丸茂さんは現在57歳とうかがいましたが、ずいぶんと長く継続されてきていますね。

 その後、引っ越しをして現在は渋谷区の蔵修館金王道場に所属しています。金王道場の稽古はすべて出席すれば週に4回稽古ができるんですが、いまはちょっと仕事が忙しいのもあってなかなか……。週2回行ければいいほうです。

──熱心に通われていますね。丸茂さんが感じる剣道の魅力とは?

 最初に感じた「非日常の魅力」はいまでも変わらず感じています。道場には凛とした緊張感がありますし、その結果、素の自分に戻れるというか、稽古のあとには身体的に整うような感覚を覚えますね。それだけに仕事がいくら忙しくても稽古に通える限りは通いたいと思っています。

──それでは最後に、剣道について、そして仕事についての今後の展望などをおうかがいできればと思います。

 剣道についてはできるだけ長く続けたいですね。金王道場にはすばらしい先生方が多いのですが、そんな先生方にお話を聞くと、いくつになられても何段になられてもつねに上を追求されているんです。きっと剣道は永遠に目標があり続けるものだと思うので、自分も可能な限りそれを追いかけることができたらと。

 仕事については、今後はホームセキュリティについてはCSPさんが駆け付けなどの付加サービスを提供していくと思いますし、ご家庭での見守りサービスについては提携先のパートナーさん主導で、医療連携・介護連携が進んで行くと思います。おそらく地域行政との協業も生まれてくるでしょう。そこで我々自身はどうするかと言えば、もっとAIアルゴリズムの高度化を通じて生活習慣病の予兆の検知の部分を詰めていきたいなと思っています。  

 将来的にですが、技術的にはWi-Fi電波を利用した個人認証も可能になります。それができると、家の持ち主が自宅に近づいたときに自動で鍵が開くとか、たとえば車でもオーナー登録されている人が近づけば鍵が開いて、その人がボタンを押せばエンジンがかかるという世界になるはず。まるでSFっぽい話に聞こえるかもしれませんが実はそういう世界はそんな先の話ではないんです。

できるだけ長く剣道を続けたい、と語る丸茂さん。所属する蔵修館金王道場では週に2回以上の稽古を心がけている
住所〒104-0061
東京都中央区銀座6-10-1 GINZA SIX 13F
電話050-1745-6388

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