皆さんは、「スイス」と聞いて何を思い浮かべますか?アルプス、永世中立国、ハイジ、高い物価…。
「ワイン」と答える方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
スイスは知られざるワイン大国。ほとんどが国内で消費されてしまうため、スイスの外に出るのはわずか2%と言われています。
そんなスイスワインの販売を通して、スイスの魅力を発信しているのが、ヘルベティカの森本代表です。
穏やかで心優しい国民性、美しい自然、そして美味しいワイン。スイスには、私たちが知らない多くの魅力があります。
森本代表はなぜスイスに惹かれ、起業までしたのでしょう。そこには、まるで小説のような物語がありました。
プロフィール
森本純也(もりもと・じゅんや)
1964年神戸出身。滝川高校から関西学院大学に進学。卒業後、スイス系の製薬会社に入社し、主にIT部門で働いたのち、2019年に合同会社ヘルベティカを創業。スイスワインの輸入、卸、通信販売を行う。Helvetica(ヘルベティカ)はラテン語で「スイスの」という意味。
剣道は友人の影響で小学校の時に始め中学2年生まで継続。剣を置いてからも剣友たちとの友情は続き、仕事でも活かされている。
▼ホームページ
合同会社ヘルベティカ 公式サイト
白ワインなのに赤ワインの味?スイスワインとの衝撃の出会い
──これまでの仕事のご経歴について教えてください。
もともとは、スイス系製薬会社のIT部門でプロジェクトマネージャーをしていました。スイスの本社で使っているITシステムを日本支社に導入する仕事です。今はクラウドで世界中がつながりますが、当時(1990年代)は日本にサーバーを立てて、本社のサーバーと繋いでいたんです。
スイスを初めて訪れたのは、1994年11月の海外出張。平社員でもビジネスクラスに乗せてくれる太っ腹な会社だったのですが、ビジネスクラスが満席で、なんとファーストクラスに乗せてもらえました(笑)
初めての出張以来、多い時は年に4〜5回、合計で30回以上スイスを訪れているのですが、スイスワインとの出会いは、ある夏の日の出来事でした。
出張で同僚の家に呼ばれ「とりあえずこれを飲んでみろ」と、勧められた白ワイン。その味に、感銘を受けました。赤ワインみたいな味がするんです。もうびっくりしてしまって。とある地方の特産品でCANA(カナ)というのですが、赤ワイン用のメルロ種で造られた白ワインだったんです。
以来、すっかりスイスワインに魅せられてしまいました。
おじいさんとお父さんが所有していたブドウ畑を引き継いだきょうだいが運営しています
──素人質問で申し訳ないのですが…赤ワインは、紫色の葡萄から造るんですよね?それが、どうやって白になるんですか?
今おっしゃった「紫色の葡萄」は「黒葡萄」ですね。通常、ワインを造るときは、まず葡萄を押しつぶします。しばらくすると皮から色素が出てきて赤ワインになるんですよ。でも、押しつぶしてすぐに皮だけ引き上げると白ワインになるんです。黒葡萄も、中身は白いでしょう?
スイス人はワインが大好きで、ワイン大国と呼ばれているんですよ。スイスのワインは質が高く、ボルドー、ブルゴーニュなどの高級ワインにも遜色のない素晴らしいものなんです。
彼らが毎日の食卓で飲むワインの多くは自国生産で、さらにそれだけでは追いつかず、自国生産量の約3倍ものワインを輸入しています。こういった事情もあり、スイスワインが国外に出回ることは滅多にありません。スイス国外への流通量は、わずか2%と言われています。
スイスの葡萄畑で得た天啓
──スイスワインに感動して、その後どういう経緯で独立に踏み切られたのですか?
仲の良いワイナリーの葡萄の収穫を何年か続けて手伝っていたのですが、2019年の収穫時に、突然閃いたんです。
「こんなにも美味しく、素晴らしいスイスワイン。身内で喜んで飲んでいるだけじゃなくて、もっと日本の皆さんに知って欲しい」
その場にいたスイス人の親友に話したら「おお、ええやんええやん、やれよやれよ」と(笑)
Royさんはデザイナー。ヘルベティカのロゴを制作した
これまでお話した通り、当時私はIT系のプロジェクトマネージャー。お酒を扱ったことも、輸入も、営業の経験もありません。酒屋さんやレストランを回って営業ができるかすらわかりませんでした。
しかし、日本に帰国して日が経つにつれ、スイスワインの輸入ビジネスへの想いはどんどん強くなっていきました。そんな折、まるで私の心の内を見ていたかのように、会社が早期退職者の募集を始めたんです。「ああ、これだ!」と、思い切って早期退職に応募しました。
お金のこと、退職後のこと、不安がなかったと言ったら嘘になります。でも、きっと神様が僕に「始めろ」と言ってたんだと思います。
当時、仕事は東京でしていたのですが、いつか神戸に帰りたいとずっと考えていました。起業すれば仕事はどこでもできます。そこで、空き家になっていた実家を住居兼、事務所兼、倉庫にしたんです。
──ご自宅が倉庫も兼ねてるんですね。会社の形態を合同会社にしたのはなぜですか?
Apple Japanやアマゾンジャパンが、合同会社なんですよね。おしゃれだなって(笑)
さらに、株式会社にすると報告義務があったりと、合同会社と比較して縛りとか手続きの煩雑さもあったので。
好きなことを仕事にするということ
──実際に独立してみて、どうですか?
自分の好きなことを仕事にできるのは、本当に幸せなことだと思います。会社員でも責任のある仕事やポジションはありますが、最終的に責任は負わされないというか、取れないというか…。
独立すると、いいことも悪いことも何でも自分に返ってくるので、やりがいがあります。トラブルもありますが、辛いと思ったことはありません。
トンネルが閉鎖されるハプニングが起こり、大きく迂回して目的地に到着
──やりがいを持って働けたら楽しいですが、漠然と仕事をしてしまう人も多いと思います。その違いはなんだと思いますか?
結局、仕事が好きかどうかに尽きるのではないでしょうか。どんな雇用形態でも、自分がやりたいことをしている人は楽しいはずです。
起業するにしても、その事業が好きでなければ続けるのは難しいのではないでしょうか。単にお金儲けがしたいだけでは続けるのは大変だと思います。
私は55歳で起業しました。その年齢から始めたこともあるからか、自分の想いや理念を大切に、ブラさないよう心がけています。
──好きなことに出会えるのは幸せですよね。一方で、若い人のなかには「好きなことがわからない」という人もいます。
誰にでも好きなことはあると思うんですよね。嫌だったら、いつでもやめたらいいんですよ。命を取られるわけではないし、始めることに年齢は関係ありません。「この歳になったらもう無理だ」なんて、そんなことはほとんどない。
起業家には、退職という概念がありません。自分がやりたい年齢まで、好きなことができるんです。
──逆に、好きなことを仕事にしても上手くいかない人もいます。
僕もうまくいっているとは言えないですけど…。大学時代の友人が「成功する秘訣は、成功するまでやめないことだ」とよく言ってます。彼も経営者なんですけど、要するに、途中でやめるから失敗するんですね。成功するまで続けること、事業を潰さないことが大事だと思います。
生きていると心配事は尽きません。でも、たった一度の人生です。迷っている人には「一歩踏み出してみましょう」と言いたいです。知識は本やネットで補うことができますし、一生懸命頑張っていれば、必ず助けてくれる人が現れます。
白馬の王子様ならぬ、白馬の紙屋さん
──営業経験がないなかで起業されたとのことでしたが、大変なことはありましたか?
最初は、ネットショップをオープンしてSNSで発信すれば、そのうち売り上げがあがるんじゃないかなと思ってたんです。でも、実際そんなに甘くはありませんでした。起業当初は友人・知人からご注文をいただきましたが、2ヶ月経った頃からピタッと注文が止まってしまったんです。
お酒の卸やソムリエの方がワイン輸入を始める場合は、本業の人脈を活かしやすいと思うのですが、僕の場合は元いた業界も全然違ったので…。
しかも、スイスワインは輸出されてないから、そもそもインターネットで検索されないんですよ。
「ワイン」と検索しても、フランス、イタリア、アメリカなどの大きなワインショップがどーんと出てきてしまうし…。
そんな折、小学校の時に同じ剣道道場に通っていた友人(三木くん)から、剣道繋がりで国香紙業さんをご紹介いただきました。「ワインと紙屋、全く繋がりがないじゃないか!」と最初は思ったのですが、国香紙業さんはとても顔が広く、色々な人を紹介してくれました。まさに僕にとっての白馬の王子様です(笑)
OA機器販売などオフィス周り全般のソリューションを提供
なかでも兵庫県北部豊岡市の老舗蒲鉾店『二方蒲鉾株式会社』をご紹介いただけたのは大きかったです。先方は新たなプレミアム・ギフトの企画を模索されていたのですが、練り物とスイスワインの相性の良さは抜群なんです。早速スイスワインとのセット商品を提案し、今やヘルベティカの得意先になりました。
國香さんは、真剣に僕の商売のことを考えて、あちこち連れて行ってくれました。『二方蒲鉾株式会社』をご紹介いただいた際は、わざわざ一緒に豊岡まで同行してくれたんですよ。本当に感謝しかありません。
小学校の頃の剣道の縁が、大人になってからも続く
──幼馴染の三木さんとは、剣道道場の仲間だったのですよね。
はい、小学校の3・4年時に三木くんと同じクラスだったのですが、彼が剣道道場に行っているからということで小学校5年生の時に始めました。今はもうなくなってしまったのですが、武徳会水心館という道場です。
全日本剣道連盟には所属していない道場で、古武道や居合も教えていました。剣道の稽古の後、希望者には居合を教えてくださってて。「剣道は武士が学ぶものだから」と、足をかけて転がしたり「なんでもあり」な教え方でしたね。
──道場剣道は楽しかったですか?
楽しかったですね!一本取った時は気持ちいいですし。僕は小手とか胴よりも、スパーンと決まる豪快な面が一番好きでした。
そしてどんな道場でも同じだと思いますが、先生方は「心の成長」をすごく重視して「礼にはじまり礼に終わる」を徹底されてました。
絶対に稽古の日は行かなければならないという雰囲気も、良かったです。やらなきゃいけないことをきちんとやれるような、習慣の基礎を作ってもらいました。
中学に入ってからも剣道は続けていたのですが、二度の骨折が影響して2年生の時に剣を置いてしまいました。また、三木くんもその道場に本所属していたわけではなく一時的な所属だったようで、いつの間にかいなくなってしまいました(笑)
Beyond the Glassーーワインを通じてスイス文化を日本に
──でも、小学校の頃の剣友の縁が大人になった今も続いているなんて、素敵ですね。最後に、今後の展望を伺ってもいいですか?
これまで築いてきたご縁、あるいはこれから広がっていくご縁を大切に、地道に、一歩一歩着実に事業を育てていきたいと考えています。
弊社の企業理念は「ワインを通じてスイス文化を日本のみなさまへ」。スイスワインの伝道師として、もっともっと日本の皆さんに、スイスの素晴らしさを知っていただきたいです。
──スイス文化を日本に広めるために、大好きなワインを販売されているなんて夢があって本当に素敵です。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、誠にありがとうございました!
番外編:スイスワインの伝道師が贈る、おすすめワイン4選
インタビューを終え、せっかくなので森本代表におすすめスイスワインをお聞きしました。好みも予算も、どんな料理に合わせたいのかも伝えずにただ「お勧めを教えてください」という無茶振りに、快く応えてくださいました!
ヘルベティカで扱うスイスワインは、どれもスイスのワイナリーを巡って全て森本代表が味見し、セレクトしたものです。それぞれ個性があって、「全部お勧め」とのことですが、なかでも思い出深い4本を選んでいただきました。
スイスワインはお料理に合わせて飲むのが良く、特に和食に合うそうです。
左から順に紹介します。「」は森本代表からのコメントです。
- CANA(カナ) / 6,000円(税抜):森本代表が起業するきっかけになった、黒葡萄で造った白ワイン。「高いワインに家庭料理を合わせるなんて…と言われてしまいそうですが、肉じゃがにとても合います」
- Rhy Passo(リパッソ)/ 12,000円(税抜):干し葡萄から造られたワイン。「ラベルにあるように、イノシシに合うと言われているんですけど、松茸にもよく合います」
- HOHLE GASSE(ホーレ・ガッセ)/ 10,000円(税抜):起業しようと思い立った葡萄畑の葡萄で造られたワイン。ホーレ・ガッセは畑の名前。「すき焼きによく合います。Best of Swiss Wineを毎年のように受賞しているワインです」
- CUVEE LOUIS EDOUARD MAULER(キュベ・ルイ・エドゥアール・モレ)/ 8,400円(税抜):スイス最高級のスパークリングワイン。エリザベス女王がスイスを訪れた際に供されたことで有名なワイン。「これはどんな料理にも合います」
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