自分が働く意味を実感したいーー。
その強い想いに突き動かされ、公務員から鍼灸師の道を選んだ小河さん。フィットネスクラブや診療所での勤務経験を経て命宝鍼灸院を開業。鍼灸にストレッチやトレーニングを組み合わせた独自の施術を展開しています。
東洋医学と西洋医学の枠組みを超えた鍼灸師を目指す一方で、小河さんには「剣道家の剣道人生をサポートしたい」という夢があります。その根底には、大学時代に過ごした仲間との熱い青春の日々があるように感じました。
鍼灸師として開業するまでの道のりと施術へのこだわり、人生に大きな影響を与えた学生時代の思い出、心に抱く夢について伺いました。
プロフィール
小河 滋(おがわ・しげる)
1970年神戸生まれ神戸育ち。兵庫県立神戸高等学校から関西学院大学に進学。卒業後、地方公務員として働いたのち、フィットネスクラブや診療所勤務を経て命宝鍼灸院を開業。
保有資格は、鍼灸師、NSCA認定パーソナルトレーナー、日本コアコンディショニング協会認定ベーシックトレーナー。
剣道は小学校3年生から4年生まで地元剣道場に所属。中学校3年間剣道部に所属し、高校では主に道場で稽古を積む。大学では体育会に所属。現在は神戸剣道会に所属。剣道五段。
>>Facebookページ
https://www.facebook.com/meiho.acupuncture/
鍼灸にストレッチやトレーニングを織り交ぜ、身体をトータルケア
──事業内容について伺ってもいいですか?
事業内容は、鍼灸、リラクゼーション、トレーニングです。
僕は開業前にフィットネスクラブと地域密着型の診療所で働いていました。フィットネスクラブに勤めていた理由は、筋肉や身体についての理解を深め、トレーニング方法を学ぶためです。「トレーニングだけではなく治療もできるようになりたい」と、働きながら学校に通い、はり師の資格を取りました。
資格を取得後すぐに開業することもできたのですが、実務経験がないのに開業することに抵抗があって…。神戸市内の地域密着型の診療所で働くことにしました。診療所には整形外科や内科があって、そこのリハビリ室で鍼灸師として雇ってもらっていたんです。2年ほど働き2015年に開業、命宝鍼灸院をスタートしました。
フィットネスクラブでのインストラクター経験と診療所での経験を活かし、鍼灸にストレッチやトレーニングを織り交ぜて施術をしています。
また、最近は良質な睡眠をサポートする施術も行っています。コロナがきっかけで寝不足になる方が増えました。スポーツでも仕事でも、しっかり寝ないとベストパフォーマンスは発揮できません。
鍼灸はリラックス効果も高いので、良質な睡眠のためにもぜひ鍼灸をご活用いただきたいです。
──鍼灸によって、睡眠がどう変わるのでしょうか?
鍼を打つことで、副交感神経を刺激できるんです。交感神経がアクセルとしたら副交感神経はブレーキ。後者を優位にできるのが鍼の特徴です。もともと現代人は頑張りすぎなところがあって、日中はアクセルを踏み続ける状態が続いています。だから、鍼でブレーキをかけてリラックスできる状態にするんです。
──施術へのこだわりがあれば教えてください。
身体は全て繋がっていて、全体で一つです。なので、局所の治療にとどまらず、トータルで診ることを心がけています。
例えば「右足首が痛い」という悩みがあったとして、右足首の周りだけを治療して良くなることも多いのですが、足首を長年かばってきたために腰の筋肉に負担がかかっていることがあります。身体の一部だけ治療することもできますが、そこから派生して全体を眺めたいですね。
あとは、常に「二人三脚」を心がけています。機械的に施術するのではなく、時間がかかったとしてもお客様一人一人に寄り添い、サポートすることが僕のこだわりです。
「働く意味」と、人の身体への強い探究心に突き動かされ開業
──なぜ鍼灸師になろうと思ったのですか?
僕はもともと公務員だったんです。でも、何かこう…働いている意義がわからなくなってしまって。特に一般職は、何かを建てたり創ったりする技術職と異なり、目に見えた成果を出しにくい仕事です。だから、働く意味を実感しにくかったんだと思います。
もともと人の身体に興味があったことも手伝い、どうしてもその方面に進みたくなりました。あとは、後付けになってしまうかもしれないんですけど、大学の剣道部で4回生の先輩のマッサージをしているときに「うまいな」と言っていただいた言葉が頭に残ってて(笑)
僕の周りは剣道をやってる人が多かったんですけど「どこをどう鍛えたら、こんな動きができるのか」とか「どういうことで怪我をしやすいのか」という疑問が、人の身体に興味を持つようになった出発点ですね。
──企業勤めを続けず、あえて開業したのはなぜですか?
開業せずに、鍼灸師として勤務を続けることも考えましたが、どうしても自分の施術がしたかったんです。施術には本当に色々なやり方があって、診療所や整骨院によって方針があります。
しかし、働いていると自分はこのストレッチを入れたいとか、ここに鍼を打ちたいという希望が出てきてしまうんです。そこで思い切って開業し、平日の夜と土曜日だけ命宝鍼灸院で自分が思う施術を実現しようと考えました。
──平日夜や土曜のお客さんは剣道関係者が多いのでしょうか?
ほとんど剣道関係ですね。地元や西宮の剣道道場の方、一時期は関学の学生も何人か来てくれていました。
──剣道家にはどんな身体の悩みがあるのでしょうか?
やはり、ふくらはぎを痛める方、肉離れを起こす方が多いですね。肉離れ後のケアの相談に乗ることもあります。競技選手になると、足裏に痛みを抱える方も少なくありません。
あとは、左足の足底(そくてい)の痛み。アーチの部分が炎症を起こすんです。痛みの強い人は扁平足気味になったりとか…。
競技が持つ怪我の傾向も踏まえた上で、予防のための日頃の運動などもお伝えするようにしています。
「お前らがいるからこそ、俺らは強くなれる」。忘れられない同期の言葉
──出身道場や高校など剣道歴について伺ってもいいでしょうか?
僕は、やめたり・やったりを繰り返してるんです。
剣道は小学校3年生の時に始めました。3年生から4年生まで1年間は地元の道場に通ってたんですけど、かかり稽古が厳しくて一回やめてるんですよ(笑)
4年生から6年生までは、小体連のサッカーチームに所属しました。中学校はサッカー部がなかったので、剣道経験者の幼馴染と一緒に剣道部に入部しました。高校ではサッカー部に所属したのですが「向いてない」と感じて1年で辞めました。
そこからは地元の神戸剣道会に所属したのですが、気が向いたら行くくらいのゆるい関わり方でしたね。だから高校はほとんど剣道に触れてないと言っても過言ではないです。
──大学では体育会剣道部に所属されたんですね。
大学で「またちょっと剣道をやってみようかな」という気持ちになったんです。やるなら体育会でと考えていました。大学の剣道が一番楽しかったですね。同期に恵まれ、本当に充実した時間を過ごしました。この期間がなければ、いま剣道を続けていないと思います。
大学卒業後は市役所に勤め、勤務先の剣道部に所属し試合に出ることもありました。仕事が忙しくなり、稽古に行けたり・行けなかったりを繰り返しながら現在は週1くらいのペースで続けています。
──忘れられない剣道の思い出はありますか?
大学時代の剣道部の思い出ですね。どんな部活でも、レギュラーとそうじゃない人に分かれてしまい、ギクシャクすることがあると思います。僕らの大学の剣道部には、それが全くなかったんです。
同期は20人もいました。当然レギュラーになれない人の方が多い。そんななか、レギュラー陣に「お前らがいるからこそ、俺らは強くなれる」と言われたんです。
そう言ってもらったことが、自分の存在意義につながりました。僕らがへっぽこだと、レギュラーと稽古しても稽古相手になりません。「自分たちも強くならなければ」という強烈な意識が芽生えました。
僕らの大学はスポーツ推薦で選手を採るような強豪大学ではなかったけど、強い奴が偉いわけじゃないこと、みんながいるからこそ組織が回ることを一人一人が理解していました。だから試合を観ていても他人事に思えないんです。気持ちを託した選手たちが一本取られたら、まるで自分が一本取られたような気持ちになりました。
同期と助け合い、4回生の時に全日本学生剣道選手権大会への出場権を手にしました。忘れられない思い出です。
あとは、剣道以外でも助け合いました。同期の一人がテスト対策のノートを作ったりして。僕らの代は留年者がゼロなんですよ。
──素晴らしい思い出ですね。大学卒業後も剣道を続けられていますが、仕事や日常生活にも良い影響を与えていますか?
そうですね、「日々是剣道」という感じで、仕事でも日常生活でも剣道の教えを活用しています。
最近は、剣道には瞑想に匹敵する効果があるのではと考えています。
僕は太極拳の普及員の資格も持っているのですが、剣道とどこか呼吸が似ているんです。太極拳は「動く禅」と言われていて、身体を動かしながら瞑想と同じ効果を得られます。ある時、「日本剣道形を深い呼吸でゆっくりやれば、太極拳と一緒なのでは」と感じたことがありました。
「心と身体は一体」というのが東洋医学の考え方です。だから心を整えると身体にも良い影響がありますし、逆も然りです。企業研修などでマインドフルネスや瞑想を取り入れている会社がありますが、あれもメンタル面の衛生を保つためですよね。剣道も、やり方次第で同様の効果が期待できるのではと考えています。
東洋医学と西洋医学の枠組みを超えた鍼灸を目指して
──今後の展望を教えてください。
東洋医学と西洋医学の枠組みを超えた鍼灸を普及したいですね。東洋医学と西洋医学は対立するもの、違うものと扱われがちですが、個人的には線引きをしたくありません。
剣道に関しては、一般剣道愛好家・競技選手に関わらず、生涯剣道を目指されている方の剣道人生をサポートしていきたいです。
最近では大人から剣道を始め「剣道を生涯続けたい」と言ってくださる方も増えました。ただ、一生懸命稽古をすると怪我もしやすくなります。
僕は剣道の実力は月並みで、一流になれない人間です。だから、サポートする側の人間として頑張りたいのです。
鍼灸院での治療にとどまらず剣道場や試合に帯同し、専属トレーナーとして活動することが夢ですね。
──まさにトータルサポートですね。最後に、命宝鍼灸院の屋号の意味を教えてもらってもいいでしょうか?
沖縄に「命どぅ宝(ぬちどぅたから)」という言葉があって、これには「命こそ宝」という意味があります。一番の宝物は、やはり命です。「与えられた命を生きましょう」「生き抜きましょう」という想いを込め、「命宝鍼灸院」と名付けました。
この屋号に込めた想いを忘れずに、これからもお客様のお仕事や剣道のパフォーマンス向上に二人三脚で取り組んでいきたいです。
──お客さんの人生や身体を大切にしている、小河さんらしい屋号ですね。本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!
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