デザインの本質を掘り下げた結果、組織開発の仕事へ。関わる人すべてが笑顔になる会社(豊田 匡臣 / オルウィン株式会社 代表取締役)

「All win」という言葉を見ると、直感的に「全勝」と訳し「自分だけ全勝する」という印象を持ってしまう方もいるかもしれません。

そこで豊田社長は、あえて「勝」の文字に「笑」をあて、「関わる人みんなが幸せになる仕事をしたい」と語ります。

事業内容はデザイン制作業務と組織開発。一見すると関係のない仕事のように見えますが、お話を伺うとなぜこの2事業が両立するのか、とても納得する答えが返ってきました。

最近はM&A後やDX導入の際に、組織を一枚岩にするためチームコーチングでサポートもしています。本記事では、オルウィンの詳しい事業内容と、豊田社長の仕事哲学についてご紹介していきます。

プロフィール

豊田 匡臣(とみた まさおみ)

1972年大阪府生まれ。近畿大学附属高校卒業後、立命館大学に進学。住友海上火災(現 三井住友海上)に入社後、6年の勤務を経て2007年にオルウィン株式会社、2020年にモノリス株式会社を設立。剣道は小学校の頃に始め、現在も継続中。錬士七段 。

オルウィン株式会社
https://allw.in/

モノリス株式会社
https://www.ichimaiiwa.com/

デザインの本質を掘り下げた結果、組織開発の仕事が生まれる

──事業内容について教えてください。

デザイン制作と組織開発を主に提供しています。デザイン制作では会社パンフレットの制作や似顔絵名刺、Webサイト制作をしています。

これまでに制作した名刺

──グラフィックと組織開発、一見すると分野が離れていますが、なぜこの2事業なのですか?

ある会社のパンフレット制作を手がけたことがきっかけです。もともとはクライアントの社長と制作をしたのですが、たまたまその会社に伺ったときに残念な会話を耳にしました。

「このパンフレットは使いにくい」と言ってるんですよ。

僕は社長から商品に対する思い入れも聞いているので、その気持ちを尊重したい気持ちもあります。でも、せっかく作っても役立たなければ意味がない。

だから、「デザインフィーを下げてもいいからもう一度作らせてほしい」と社長にお願いしたんです。

──誠実ですね!

その会社に惚れ込んでたんですよ。話を聴けば聴くほど、もっと知りたくなりました。

社長だけではなく社員の皆さんの意見を聴くために、工場、営業など主要メンバーを集めてもらいました。話を聞いてみると、みんなバラバラなんです。

──話し合いはどんなふうに進んだんですか?

営業の方が「もっと売りやすいものを作って欲しい。消費者が求めているのはこんなことだ。だから、こう作ってほしい」と言うとするじゃないですか。僕はそれを受けて「工場の皆さんはどう思っていますか?」と意見を促す。すると「俺たちはこういう機能が重要だと思っている」と工場の方々も答えてくれる。

だんだんヒートアップしていって、営業が「もっと商品の意味と意義、そして価値などを伝えて欲しい!」と言うと、工場の方は「じゃあ、消費者の声を教えてよ!」と、率直に意見を伝え合うようになったんです。

最初は全員違う方向を向いて意見なんて出さなかったのに、最終的にはその場でパンフのデザインラフがほとんど出来上がりました。

結果として数回の修正で終わり、しかも満足度がめちゃくちゃ高かったんです。僕自身もすごく楽しかった。そして、社長は「何よりも一番嬉しいのが、部署同士の壁を乗り越えて、飲みに行くようになったりして、関係性が良くなったことだ」と言ってくれたんです。

ただ要望通りにパンフレットを作るより、僕はこっちの方が断然面白いと思い、やりがいを感じました。この体験が組織づくりの事業につながっていきました。

──似顔絵入りの名刺を作るときも、パンフレットのように細かくヒアリングをするのですか?

はい、「○○会社さん」ではなく、その人の個性が伝わり個人名で声をかけられるような名刺を作るために、4時間ほどワークショップをします。

例えば、「○○さんの良いところを15個書いてください」ってワークをやるんですよ。さらにその中から1つ「これだ」と思う長所を選び、なぜそれを選んだかを語る。

──そのワークだけで自己肯定感が爆上がりしそうですね。

ワーク中に泣いてしまう方もいますね。自分が選んだ1つの長所はその人自身のギフト…宝物だと思ってくださいと伝えています。その長所などをもとに名刺に載せる情報や似顔絵を制作していきます。

──いまは転職が当たり前の時代ですが、その会社に所属していたことが忘れられなくなりそうですね。

自分にはこんな強みと想いがあり、こんな仕事をしているんだよと伝えたくなりますよね。特に新入社員の皆様には出来上がった名刺をぜひご両親に差し上げてくださいと伝えています。

しかも名刺の情報を更新してWebに掲載し、成長を実感できる工夫もしています。イニシャルもOKにしているので、個人名を出すことに抵抗がある人でも参加できます。Webに掲載する取り組みもしています。

──人の話を聞くときのコツや、本音を引き出すコツはありますか?

「パンフレット(名刺)を作るので教えてください」という立場で質問すると、皆さん答えてくださいますね。僕は中立的な立場なので、誰かの意見に反発することもありません。僕に情報を提供することで誰かが嫌な気持ちになることがないんです。

さらに、「このプロジェクトを通して、商品やサービスが勝手に売れるくらいの最高のパンフレットを作りましょう!」とお伝えしています。出てきたアイデアに対して「これで最高で間違いないですか?他にないですか?」と聞くと「いや、キャッチコピーはもっと短い方がいい」など意見が出てくるんです。

その言葉を聞き出せたら、今度は「短くするんだったら何が合うか、3人1組になってワークしてください」などとワークショップを進めていきます。

最近では、DX導入やM&A後のチームコーチングの依頼も受けるようになりました。

──それはどんなことをするんですか?

例えば、老舗メーカーがDXやCADを導入する際に、システム会社と組んで導入のお手伝いをしています。DXはシステムの導入だけではなく、そこで働く「人」を含めての改革が必要です。既存の組織の形や、社員がどんな想いを持っているかを聞いた上で、スムーズに導入するためのお手伝いをしています。

──確かに、いきなりシステムだけ変えても上手くいかないですよね。

そうなんです。M&Aに関しては、買収後に組織を一枚岩にしていく必要があります。資金政策的には上手くいっても「人」の部分が上手くいかないことで苦労する企業は少なくありません。

買収された企業の社員がやる気ややりがいを持てなければ、売り上げの最大化は難しいでしょう。だから、合併後にはチームコーチングが必要なんです。

関わる人みんなが幸せになる会社を目指して

──現在のお仕事を始めるまでには、どんな経緯があったのですか?

もともと父が会社を経営していて、会計ソフトの仕組みやボーリング場のスコアを計算するシステムを開発して販売していました。そこで必要となる伝票や帳票を提供していました。

「いつか会社を継ぐんだろうな」とぼんやり考えてはいたものの、大学卒業後は住友海上火災(現 三井住友海上)に入社。家業とは全然違う保険業界で働くことになりました。

最初は3年で辞めて家業に入る約束だったのですが、なんだかんだ6年勤めましたね。

──家業に入ってからはどんな仕事をしたんですか?

当時、データを入力すると伝票や請求書、給与明細が出てくるシステムを勉強しました。これはいわゆるサブスクリプション(定期購入)タイプの仕事です。毎月発生するものだからずっと続いたんですよ。

システムのことも印刷も何も知識がありませんでしたが、この仕事を通してビジネス法務と印刷の基礎を学びました。

でも仕事を続けるうちに、システムありきの印刷より、もっと発想力・想像力を生かした仕事をしたいと思うようになり、独立しました。

最初は知人に出資してもらいシステム系の会社を立ち上げました。でも、なかなか上手くいかなくて。
その後、2007年に立ち上げたのがオルウィンです。「会社は、関わる人みんなが良くならないと存在意義がない」と考え、all win(オルウィン)と名付けました。でもall winと書くと「全勝して一人勝ちする気か!」とおっしゃる人が多くて、ややこしいので全勝の「勝」を「笑」にしました(笑)取引先も含めて、みんなが笑顔になる会社にしたかったんです。

──今のお仕事はどうですか?

めちゃくちゃ楽しいですね。組織を一枚岩にするために行うチームコーチングは特にやりがいがあります。

一般的に、人は組織の中で責任を取らされることを嫌います。そしてその積み重ねが組織の機能不全を起こすのです。

しかし、チームコーチングを進めていくと、今まで責任から逃げていた人が、終盤には「俺がその責任を引き受けるから、新たな挑戦をしよう!」なんてこと言い出すんです。見てるこっちが泣きそうになります。組織に変化が起こる瞬間は、本当に面白いですね。

今まで他人事で逃げていた人が責任を引き受けにいくようになったとき、組織は一枚岩になっていくんです。そして全員で取り組むと、成果が全く変わります。絶対達成させようと物凄いスピード感で突き進んでいきます。

僕は剣道が大好きです。しかし一方でラグビー、野球、アメフトなどのようなチームプレーにも憧れます。剣道にも団体戦はありますが、対戦は一対一の個人競技なんです。チームとして連携プレーのある団体競技への憧れが今のチームコーチングの仕事にも、ある意味繋がっているかもしれません。

人間的に成長した高校時代、同期に支えられた大学時代

──剣道を始めたのはいつですか?

小学校2年生の時です。当時は野球をやりたかったんですけど、「剣道している人は礼儀正しく、背筋が伸びていて格好良い」と、祖母に強く勧められて始めました。中学も続けて全国大会にも出場し、高校は憧れの先輩がいる近大附属に進学しました。2つ上に、近畿チャンピオンになったすごく魅力的な先輩がいたんです。

稽古は厳しかったんですけど、人間的に一番成長できたのは高校時代だったと思います。先生(監督)の家に下宿させていただき、学校に監督家から通いました。本当に濃厚な3年間を過ごしました。

──大学剣道はどうでしたか?

恩師に様々なことを教えていただいて、人としての基礎を作ってもらったのが高校生活だとしたら、大学は自分で選択する力が問われていたと思います。自由だけど、そのぶん責任を取らないといけない。

大学時代の僕は生意気な学生で、先輩に反抗して粗相もたくさんしました。辞めようか悩んだ時期もあって、高校の恩師に相談したこともあります。

──先生はなんて?

「関西で優勝するような大学なんだから、続ける良さがあるはず。もう1年やってみろ」と。2年生の時は、色々あって入院もしていたんですけど、復帰した時に先輩に「最後、本気でやってみないか」と励ましていただき、試合に出るチャンスをいただきました。結局、引退まで続けましたね。

──最後まで部活をやり切ったんですね。

はい、同期の存在も大きかったです。僕らの学年は良いメンバーが集まっていたので、1年生の時に「俺らの代で関西優勝しよう」と約束をしていたんです。僕が粗相をして、連帯責任を同期たちが取らされても、女子含めて1人も文句を言いませんでした。そんな彼らに「辞めるわ」とは言えなかったんです。

──現在も続けられていますが、剣道のどんなところが魅力ですか?

交剣知愛ですね。全然知らない人と一対一で剣を交えることです。稽古して、打ち合っても最後は礼をして終わります。終わって相手の方にお礼をする時も、表面では見えないですがお相手とつながるような感覚になります。

構えて打ち合う時って、カッコつけられないじゃないですか。いつ打たれるかわからないなかで、決断して、決まった時間の中でお互いを出し合います。ある意味、自己開示というか、自分のことをさらけ出していると思うんですね。強いところも、弱いところも相手には伝わると思います。ちょっと厳しそうな取引先と飲みに行って、仲良くなる感覚と似ていますね(笑)

大欲清浄を胸に、日本も世界も元気にする会社を育てる

──お仕事をする上で大切にしていることを教えてください。

大欲清浄(たいよくしょうじょう)を大切にしています。利己は小さい欲ですが、大欲にはエネルギーがあります。メーターが振り切れるくらいの大きな欲を追求すれば、自分だけではなく周りの人も幸せにするところまで行き着きます。利他につながるように解釈しています。

自分の儲けだけではなく、取引会社や他の人の人生も良くなってもっと満たされる、そんな仕事をしていきたいです。また、嫌われるのではと遠慮をしないこと。この人のためになると本当に思うのなら、言葉は選びますが進言することも大切です。嫌われたらご縁がないだけ。嫌われようと何をしようと、この人のためになると思うのであれば、信念を曲げたくないです。

豊田社長の仕事観に大きな影響を与えた書籍たち

──今後の展望について教えてください。

オルウィンの経営理念「笑顔になり、希望を持ち、絆を育み合う事業を通じて、

幸福な社会を共に創り続ける」をいかに具体的に実現していくかですね。組織を一枚岩にする仕事を通して社会を明るくしたいです。日本には数多くの100年企業があります。100年企業大国日本が経済的に良くなれば、きっと世界も元気になります。日本の元気を世界に広げていきたいですね!

──素敵ですね!名刺作りのお話もとても感動しました。本日はお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。

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