愛情と料理で家族をhugする料理人。6人の子供のイクメンシェフが提言する「親子料理」とは?(大下 最弘 / パインズハート代表)

3男3女、子沢山のイクメンシェフ・大下 最弘さんは、大阪の洋食店「パインズハート」の2代目です。本業である洋食店経営のほか、親子のコミュニケーション支援を目的とした「親子料理」の教室も主催しています。

6人の子供のお父さんで育児支援にも積極的な大下さんですが、もともとは全く育児に関わりを持とうとしなかったそうです。何が大下さんの意識を変え、イクメンシェフへと変貌させたのでしょう。

本記事では、地元で人気の「パインズハート」の看板メニューに始まり、大下さんの価値観を形作った家族や剣道の話、そしてイクメンシェフとしての社会貢献活動について詳しく伺いました。

プロフィール

大下 最弘(おおした・ともひろ)

1969年大阪府門真市出身。太成高等学校(現・太成学院大学高等学校)から大阪産業大学に進学。卒業後、文化シヤッター株式会社に3年勤務した後、家業である「パインズハート」を事業継承。3男3女の子沢山シェフとしてNPO法人ファザーリングジャパンや日本パパ料理協会に所属。

剣道は兄の影響で小学校1年生の時に始め、現在四段。

店名昭和洋食 パインズハート
所在地大阪府吹田市垂水町1-40-5 マンションアルブル1階
Google Map
電話番号06-6387-3965

ホッとする味、昔ながらの日本の洋食店

──事業内容について教えていただいてもいいでしょうか。

大阪府吹田市で洋食屋『パインズハート』を営んでいます。

このお店は創業昭和39年、東京オリンピック開催の年に「レストラン まつの木」の屋号で創業しました。当時の日本はオリンピックの影響から好景気で、洋食は「ハレの外食」ともてはやされたそうです。

現在の屋号になったのは平成17年。松は英語でパイン、創業者である父の想いを受け継ぐ意味も込めて「パインズハート」と名付けました。

──お店ではどんなメニューを出しているのですか?

人気なのはこちらの「選べるセットメニュー(1100円~)」ですね。

ハンバーグ、エビフライ、カニクリームコロッケ、チキンカツ、魚フライ、ミートオムレツ、牡蠣フライ(冬季限定)などを組合わせるメニューです。

取材の日にいただいたメニュー。
エビフライ、カニクリームコロッケ、ハンバーグの3種を組み合わせました!

国産牛の前バラ肉をとろけるまで煮込んだ「ビーフシチュー(1,950円)」や「クラシックポタージュ(450円)」も人気です。ビーフシチューは有難いことに「自宅でも食べたい!」と言っていただいて、通販でも販売しています。

──お店の料理を自宅でも楽しめるよう、通販もなさってるんですね。

ええ、通販だけではなくテイクアウトもやってますし、会議やイベント向けにお弁当も作ってますよ。パーティー、宴会でのオードブルもご予算に応じて承ってますので、お気軽にご相談いただきたいですね。

──本日は「選べるセット」を注文させていただいたのですが、ホッとする昔ながらの洋食というか、優しい美味しさでした。お店の雰囲気も素敵ですね。

ありがとうございます。伝統的な日本の洋食を守りつつ、みなさんが心地よく過ごせるお店を目指しているんです。ホッとする空間を作るために手に触れるところは天然の木を使っています。

ゆったりとした音楽が流れ、天然の木材に囲まれたお店。 ホッとする空間でした

──カウンターの席の前には、沢山の本が置かれていますね。

僕が所属するNPO法人ファザーリング・ジャパンのメンバーの著書なんです。ファザーリング・ジャパンは「Fathering=父親であることを楽しむ」を合言葉に、「笑っている父親」を増やすためにさまざまな活動をしています。

──絵本もありますね。

これは子連れのお客さんのために置いています。ちなみに、「たまごのきみだよ」は僕が描きました(笑)

大下さん作「たまごのきみだよ」YouTubeでも公開中

父親の子育てに関してはまだまだ情報が足りておらず、子育てに関わりたいと思っても上手くいかない人も少なくないはずです。

ファザーリング・ジャパン関西では育児に関する講演や講座などを提供して、お父さんの育児を支援しているんです。僕も定期的に料理教室を開催したり、子連れの方々にも居心地の良いお店作りを目指しています。

──素敵ですね!もともと育児には興味を持たれていたのですか?

それがね、イクメンからはほど遠い男だったんですよ。僕、子供が6人いて、しかも下の2人は双子なんです。でも、きちんと育児に関わるようになったのは、双子が生まれてからでした。

「檻の中の象」理論。厳しい環境でも剣道をやりきる

──現在はイクメンシェフとして活動する大下さんですが、そうなるまでの道のりを伺ってもいいでしょうか?

僕が子供の頃の話からスタートしてしまうのですが、せっかくなので剣道の話も織り交ぜながらお伝えしていきますね。

僕の家は料理人の父と、それを支える母、兄、姉、僕の5人家族でした。料理人としての父のモットーは「明日につながる仕事」をすること。僕はそんな父が大好きで、幼い頃からよく厨房をうろついていました。「まつの木はおれが継ぐんだ」と子供の頃から考えていました。

大下さんのご両親と兄さん、お姉さん
(作画:大下さん)

──剣道は何歳くらいから始めたんですか?

小学校1年生ですね。兄の影響で始めました。ちなみに兄は桜宮高校剣道部出身です。僕は私学1回目の試験が終わった1.5次の枠で太成高校に進学しました。太成高校の稽古は本当に、めちゃくちゃ厳しかったですよ。

──剣道を辞めたいと思ったことはありませんでしたか?

ないですね…なんていうか、檻に入っている象みたいなものだと思うんですよ。

例えば、小さい頃から檻に入っている象は、大きくなってその檻を壊す力を身につけたとしても、そもそも「檻を壊す」発想がないから外に出れないと思うんですよね。

──すごい例えですね(笑)!それで大学の体育会まで続けたと…。

そうですね。大学は大阪産業大学に進学し、4年間剣道部で頑張りました。卒業後3年間は文化シヤッターに勤め、その後、実家に戻り家業を継いですぐに妻と結婚したんです。妻とは大学時代にアルバイト先で知り合いました。

妻は身長が高くて超美人。しかも仕事も手を抜かない働き者でした。思い切って彼女に告白したところ、なんとOKをもらえたんです。自分で何かを選択して、挑戦して得た初めての成功だったかもしれません。

──素敵ですね。でも、強豪校の太成高校と大阪産業大学で剣道をやりきって結果も残されているので、充分成功していると思いますが…。

美人の彼女をゲットした成功体験
(作画:大下さん)

娘の病気と親子料理が、価値観を根本的に変えた

──結婚生活はどんな風にスタートしたのですか?

多くの夫婦がきっとそうであるように、「僕の普通」と「妻の普通」がぶつかって、喧嘩をしてしまうことがよくありました。

ある夜、食事中に喧嘩をしてカッとなって、妻に丼鉢を投げつけてしまったんです。妻は怒って実家に帰ってしまいました。当たり前ですよね。その時すでに1人目の子供を授かっていたので、きっと安全のためにも里帰り出産を選んだんだと思います。

丼鉢を投げつけられ、実家に帰ってしまった奥さん
(作画:大下さん)

出産当日、僕は仕事終わりにラーメンを食べようとしていました。その時、義理の母から「赤ちゃんが産まれそうだよ」と電話がかかってきたんです。僕は一言「頑張ってと伝えて欲しい」と言ってラーメン屋に向かいました。

すると、またまた電話がかかってきて妻が「けーへんのか!」と怒っていると。僕はラーメンを諦めしぶしぶ病院に向かいました。

──それは…怒られますね…!

ですよね(笑)でも、これには僕が育った家庭環境も少なからず影響しているのかなと思ってます。僕の母は姉が産まれる直前まで働き、なんと病院に間に合わず自宅で出産をしました。僕のときも仕事中に産気づいて、お客さんが病院に連れて行ってくれたんです。

うちの父はとても厳しい、いわゆる無口な職人気質の男でした。一方母は、いつも父親を立てて、大変だった出産や子育てを悲観することなく、明るく話してくれました。

大下さんのお姉さんを自宅出産したお母さん
(作画:大下さん)

──明るい、素敵なお母様ですね。

ええ、でもそのおかげで「出産は病気ではない」と心のどこかで甘く考えていたんです。翌年、2人目の子供に恵まれたのですが、その時も里帰り出産でした。妻は1回目から学習したのか、なんと出産後に連絡が来ました。「出産=病気ではない」と僕の中で確定した瞬間でした。

翌年3人目に恵まれ、懲りない僕は生まれそうか確認した上で友達と釣りに出かけました。バチがあたったのか、その帰りに居眠り運転で事故ってしまい、友達の車を廃車にしてしまいました…。

そしてその6年後、3女が生まれたのですが、生後9ヶ月の時に旅行先で病気にかかり、命に関わる状態に陥ってしまったんです。この出来事がきっかけで、子育てに対する考え方に変化が生まれました。

──どんなふうに変化したのですか?

それまで、子供は簡単に生まれて勝手に大きくなると思ってたんです。まさか自分の子供が1才を迎えられないなんて想像もしていなかった。

自分の子供が1歳まで生きられない可能性があるなんて…
(作画:大下さん)

入院は3週間を余儀なくされましたが、奇跡的に回復しました。しかし、主治医の先生に「この子にはこの先、なんらかの障害が現れるかもしれません」と言われました。
でも、不思議とショックはありませんでした。ただただ、目の前の命に感謝し大切に育てていこうと決意しました。それ以来、街で見かける子供たちを見る目がガラリと変わったんです。全てが愛おしく、可愛く思えるようになりました。

ただ目の前の命が生きていることに感謝
(作画:大下さん)

──お子さんの病気が、価値観を大きく変えるほどの衝撃をもたらしたんですね。

はい。そしてその数年後に、また子供を授かりました。今度は双子です。双子の子育ては食事・おむつ・寝かしつけ、全てが2倍と物理的に大変で、いやおうなしに育児に関わり始めたんです。それまでは、おむつも交換したことがありませんでした。
そして子供が6人となり、何かとお金がかかり、外食もなかなかできなくなりました。そこで、自分の店で親子料理を作ることにしたんです。Facebookにその様子を投稿したら、「それってモンテッソーリ教育ですよね?」とコメントをいただきました。

何気なく始めた親子料理とFacebookポストが人生を変えた
(作画:大下さん)

──モンテッソーリ教育は、イタリアの医師が作った教育方法ですよね。オランダでは幼年期の教育に取り入れている学校も少なくありません。

はい。そのコメントが気になって、図書館であらゆる育児書を読み漁っては、書き留めました。そして、付け焼き刃のアプローチかもしれませんが、ゆっくり無言で、料理の手本を子供に見せたんです。

続いて子供がチャレンジし、やり終えた瞬間、「できたっ!!」と目をキラキラさせながらこっちを振り向きました。僕の中では「できて当たり前」と思ってたことが、子供にとってはこんなにも新鮮なんだと気づいた瞬間でした。

「できた!!」と瞳を輝かせる子供
(作画:大下さん)

そしてその時、僕の中のスイッチがパチンと入る音がしたんです。胸がドキドキし、今まで体験したことのない感情に襲われました。僕のモットーである「料理でhugする」が生まれた瞬間です。

それ以来、月1の親子料理は、家族のコミュニケーションツールとして欠かせなくなりました。

料理を通じて親子のコミュニケーションを支援する

──親子料理ではどんなことをしているんですか?

例えば親子でオムレツを作って、ケチャップでお絵描きをしています。失敗しても食べられるので食材が無駄になることもありません。

子供ってね、2歳くらいから「お手伝いしたい」「卵を割りたい」って言い出すんですよ。コロナ禍の影響で最近は開催できていないのですが、状況を見て大丈夫そうであれば、また開催したいですね。

──以前はどれくらいの頻度で開催していたのですか?

土曜日に開催していました。ファザーリングジャパンに所属するのと同時に、土曜日を定休日にしたんです。

──飲食店で土曜日を定休日にするって、けっこう勇気がいりませんか?

そうですね。でも、やっぱり親子向けに料理教室をするのであれば土日のどちらかの方が良いのです。地元に対して何か貢献したいと考え始めていた時期でもあったので…。

土曜日を定休日にしても日曜日にお客さんは来てくれます。あえて土曜日に休み、社会貢献活動をすることで、「子沢山で子供好きなシェフがいるお店」としてブランディングにも役立ったんです。

外食をしにくい、小さなお子さんがいるご家族も来てくれて、僕からするとプラスの効果の方が大きかったですね。

──確かに、「子供が6人いて、子供のための活動をする料理人」って尖っていますね。

料理教室で儲けようとは考えていないので、土曜日を休みにすることは短期的な視点だとマイナスです。

しかし、それによって稀少な個性を手に入れ、自治体や企業からの講演依頼や取材のオファーが来るようになりました。吹田市の男女共同参画センターの審議員を務めるようになったので、影響は計り知れません。

これまでに受けた取材記事の切り抜き

さらに、この親子料理のおかげで、僕はダメ親父から変貌できたと思うんです。そして、子育てと料理の共通点にも気づけました。どちらも大切なのは、「素材の良さをいかに引き出すか」ということ。

それに気づいてからは子供に対してイライラすることが激減し、料理のクオリティも格段に上がったんです。

僕のように、きっと料理がきっかけで親子関係が良いものになったり、ブラスの影響を受ける人は少なくないはずです。

本業の洋食屋を拠点に、イクメンシェフとして社会貢献活動を継続

──今後の展望について伺ってもいいでしょうか?

父が掲げた「明日につながる仕事をする」と、親子料理から得た「料理でhugする」をモットーに、洋食屋として美味しい料理を提供していくことですね。

そして、子育て支援としての料理を普及していきたいです。これは「手作り料理をがんばりましょう」という意味ではなく、月に1回でいいから、親子で料理をする時間を持ちませんか?という提案なんです。

極論、料理じゃなくても出前でも外食でもいいと思うんです。手作りじゃなくても、毎月繰り返し親子の時間を持つことで、きっと親子関係が円滑になっていくはずです。

──親子で定期的にコミュニケーションを取る時間を持とう、ということですね。

はい、あとは最近ECサイトもリニューアルオープンしたので、その販売も頑張っていきたいですね。有難いことに、インターネットでの販売は剣道の後輩が手伝ってくれているんです。

お店にもよく剣道関係の方が顔を出してくれます。僕はもうずっと剣道をやってないのですが、兄がまだ続けているから剣道の情報も入ってきます。

縁が続くのは嬉しいし、有難いですね。練習試合や地元の剣道大会のお弁当の仕事をいただくこともあるんですよ。

──最後に、親子料理に興味を持たれた方に向けてメッセージをいただいてもいいですか?

僕は、月1ワンメニューとしてハンバーグをお勧めしています。みなさんが手作りしやすいよう、シート上の冷凍にしたハンバーグを通販で提供して、「こねて焼くだけ」にできるよう商品開発も考えているので、もしよければ僕のInstagramYouTubeをフォローしてくださいね。

YouTubeでは、オムレツの初心者向けレシピも公開しています。親子の時間をより充実したものにするために、お役立ていただければ嬉しいです。

──本日は美味しい洋食と、親子料理に関するさまざまなお話をお聞かせいただき、ありがとうございました!

住所〒564-0062
大阪府吹田市垂水町1-40-5マンションアルブル104号
電話06-6387-3965
営業日月~土:11:30〜(L.O.14:00),17:30〜(L.O.21:00)
定休日

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です